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番外編

イバキ市奪還作戦 10

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ソアラの魔法によって焼けただれた地面の上に、空から小さな影がスゥーと降り立つ。

何が起きたのか理解出来ないまま、全員が黙ってその光景を見つめていた。

降り立った影は身長が1m程しかない。古ぼけた茶色の外套を全身に纏い、大きなフードを深く被っている。そしてフードの奥に覗く紅い瞳で、辺りをグルリと見渡した。

「思ったより生き残ったが、まあ良い」

再び、しわがれた老人の声が不気味に響く。それから男が右手に持つ、自分の身長よりも長い木製の杖で、強めにコツンと地面を突いた。

その途端、呆然と立ち尽くす兵士や冒険者たちの頭上を埋め尽くすように、多数の魔法陣が所狭しと浮かび上がる。

「儂は大魔王メフィルド様にお仕えする傀儡師、ハベードである」

そのときハベードの声に呼応して、全ての魔法陣から何本もの闇の鎖が降り注ぎ、装甲猪戦で犠牲になった死体に結びついた。

「此の名、地獄の駄賃に持ってゆくが良い」

次の瞬間、死体が突然起き上がり、持っていた武器で周りの人間に襲いかかった。

反応の遅れた者が次々と犠牲になり、あちこちで断末魔の悲鳴があがる。そうして被害者が増えていくと、更に魔法陣が出現し、その数を着々と増やしていった。

「何が…どうなってんだ?」

アサノも混乱したまま、乱戦に巻き込まれる。

死体とはいえ、今まで味方だった人間が襲いかかってくるのだ。その動揺は隠し切れない。

更に厄介なのは、前後左右関係なく走り回り、関節の可動域関係なく攻撃を繰り出してくることだ。

まるで壊れた操り人形のようであった。

アサノは防戦一方で耐え凌ぎながら、目線で部下たちを探す。精鋭揃いとはいえ彼らは魔法士だ。近接戦闘での乱戦は基本的に得意ではない。

目前の敵兵を圧縮空気で吹き飛ばし、アサノは周りをグルッと見渡した。するとサカシタと共にいる、ラントとシーナの姿を発見する。

背後にふたりを守って戦っているが、しかしよく見ると、サカシタはハルバードの柄の方でしか反撃していない。相手を傷付けることを、躊躇っているようであった。

かくいうアサノも相手を斬ることに躊躇している。

恐らく全員が同じような状態なのだろう。相手の数は減ることなく、増え続ける一方であった。

「サカシタ!サンドラを見たか?」

アサノはサカシタの元に駆けつけると、背後から敵兵を蹴り飛ばす。

「ごめん、分からない」

サカシタの返答に舌打ちすると、アサノは声を張り上げた。

「サンドラー!どこだぁー!」

「アサノ……うっ!」

少し離れた場所にいたサンドラが、こちらに気付きアサノに手を振った。しかし次の瞬間、敵兵の体当たりを後方からまともにくらい、前に膝をついて倒れてしまう。

操り人形と化した同僚の兵士が、逆手に持った片手剣を頭上に振り上げた。

「サンドラ!」

アサノが咄嗟に飛び出す。

無慈悲に振り下ろされた片手剣がサンドラに突き刺さる寸前、アサノが相手の腹を蹴り飛ばした。

しかし振り下ろされた人形の凶刃は、アサノの左肩に深々と突き刺さっていた。

   ~~~

「ターニャ…悪いけど、手伝ってくれない?」

ホリンはどこか間の抜けた声で、横に立つターニャに声をかけた。

「ま、確かに見学なんて言ってる場合じゃなさそーだな」

ターニャは「はー」と大きな溜め息をつく。

「皆んな優しすぎる。このままじゃ、直ぐに全滅してしまう…」

ホリンは周りを伺いながら、ボソッと呟いた。

「だから、ボクらでやるよ」

「オイオイ…オレだって優しいんだぞ!」

「勿論知ってる…」

ホリンは特に表情を変えることなく、ターニャを見据える。

「でも…よね?」

「ああ、

ターニャはニヤリと笑って頷いた。

ホリンも満足そうに頷くと、槍に闘気オーラを流し込んでいく。

「君たちの無念は、全てボクが背負う。恨んでくれてもかまわない…」

まるで祈るように呟くと、ホリンの紅い瞳が鋭く煌めいた。
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