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番外編

イバキ市奪還作戦 4

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アサノは突進してくる甲殻猪をギリギリまで引きつけて寸前で躱すと、甲殻猪の側面目掛けて左手のグローブから圧縮空気を撃ち出した。

甲殻猪は突然の衝撃に走りながら横転し、勢い止まらず地面を滑る。

アサノは瞬時に間合いを詰めると、甲殻で覆われていない腹部へと片手剣を突き刺した。同時に発生した電流が甲殻猪の全身に駆け巡り、ビクンと大きく痙攣する。

サカシタはハルバードを釣竿のように背後から振り上げると、ピクピクと小刻みに痙攣している甲殻猪に向けて薪割りのように振り下ろした。

甲殻の防御力など嘲笑うかのような一撃である。

甲殻猪はブワッと影と化し消滅した。

「敷地内の魔物は一掃されました」

セーレーの報告にアサノが小さく頷く。それから仲間の方に顔を向けた。

「だってよ。とりあえず休憩きゅーけー!」

「休憩じゃない!防衛任務」

サカシタが思わず大きな声をあげる。

「分かってるよ、ウッセーなー!」

アサノはシッシと手を振ると、グラウンドの横にあったベンチにドッカと寝そべった。

「各自、警戒を怠らず、順次休息をとれ」

「どう思うよ、アレ」

サカシタはラントたちに助けを求める。

3人は「ハハハ」と愛想笑いをするが、いつも通りの光景が頼もしくもあった。

   ~~~

冒険者たちが、学院に残る者、数人でグループを作り攻め上がる者、と思い思いの行動を始めた。

残った者はこの場に集まり、アサノのことを遠巻きに眺めて「ヒソヒソ」と話し合っている。

強さと美しさを兼ね備えた戦女神に尻込みして、声をかけることを躊躇っているようであった。

「少しは愛想よくしてやったら?」

芝生の上に直に座り込んでいたサカシタが、横のベンチで寝そべるアサノに声をかけた。

「興味ない」

目を閉じたまま、アサノがぶっきら棒に答える。

「いつかは還るんだから、後々メンドーだ」

「…優しいよな、オマエ」

「ウッセー、黙れ!」

アサノは「チッ!」と舌打ちすると、寝返りをうって身体を横に向けた。

「魔物を検知。皇帝鴉2体です」 

突然のセーレーの警告に、アサノがガバッと飛び起きる。

「皇帝鴉だ!気を抜くな!」

それから周囲の冒険者にも聞こえるように、声を大きく張り上げた。

ザワッと、この場に緊張が走る。

皇帝鴉とは、アイたちが初めてラング国に来たときにカタン市を襲撃した魔物である。その脅威は危険度A級に分類される。一応鳥型の魔物だが、もはや飛竜と言っても過言ではない。

翼を広げた時の大きさは2mを優に超える。口から炎のブレスを放射しながら飛び回り、地上の生物を焼き払っていく。戦場を支配するように上空を旋回し続け、必要以上には決して近付かない。その体表が、竜のような硬い鱗に覆われていないのが唯一の救いであった。

 「誰か、遠距離が得意なヤツがいるなら、手を貸してくれ!」

アサノの呼びかけに、5人の冒険者が応えた。男魔法士3人と女魔法士1人、そして洋弓銃クロスボウを携えた男弓士が1人である。

「シーナ!」

アサノはさらに、仲間の回復士も呼び寄せた。

「コイツらのこと、頼む」

「了解です!」

シーナがカツンと踵を鳴らしアサノに敬礼する。

アサノはシーナの肩を拳の裏でコンと小突くと、5人の冒険者に向き直った。

「アンタらのことは、このシーナが必ず守る。だから全力で攻撃に専念してくれ」

「『黒い幻影ブラックファントム』の頼みとあれば、手を抜く訳にはいかないぜ!」

男魔法士が一歩前に身を乗り出して、やや興奮気味に応えた。残りの者も力強く頷く。

アサノは一瞬呆気にとられるが、全員の顔をグルリと見回すと「フフッ」と微笑んだ。

「アサノだ。よろしく頼む」

5人の冒険者たちはアサノの表情に息を呑むが、直後に弾けたように「おおー!」と雄叫びをあげる。

その笑顔は、同性をも撃ち抜く破壊力であった。
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