58 / 98
第2章
2日目終了 5
しおりを挟む
イバキ市はネヤガー市の対岸、ヒクエン大橋を渡った先にある。
現在ヨルド河より北部は魔物の勢力下にあり、この先に進軍するためには必ず奪還しなければならない重要な都市であった。
「信じられないコトですが、どこかの命知らずのバカが黒帝狼を討伐したという噂が、軍の方にも聞こえてきまして…」
坂下が呆れたように肩をすくめる。
「噂の真偽や魔物の襲撃分布を調査したりと、とにかく後方の憂いが無くなったことが確認出来れば、次はイバキ市奪還に向けて動きだすようです」
「へー偶然」
「私たちも討伐しましたよ、黒帝狼」
亜衣とお菊が顔を見合わせて「ねー」と笑った。
「……は?」
浅野がこちらでは珍しく、大きな声を出した。
「倒したって…黒帝狼を!?」
坂下も、思わず声が大きくなる。
「は…はい」
浅野と坂下の驚きように、お菊は身を竦めた。何かいけなかったのだろうか…?
「でも、だって。目潰しとかされなかった?」
「ああ…されました」
「された!?それでどうやって倒したんだ?」
「どうやってって、ねえ?」
「アレは亜衣が1人で倒したも同然ですよね?」
お菊とフランは顔を見合わせると、揃って亜衣の方に顔を向けた。
「…え?」
突然注目が一身に集まり、亜衣は思わず後退る。
「どうやってって、そんな…反復練習の賜物に決まってるじゃないですか」
亜衣は皆んなの視線の意味が分からず、困ったようにポリポリと頬を掻いた。
~~~
今日も18時にフランを水戸の元に送り届けると、亜衣とお菊もそのままそこで解散した。
しかし亜衣は真っ直ぐ家には帰らずに、駅前の家電量販店の中にある、オモチャ売り場「トイランド」へと立ち寄った。
それから亜衣は、陳列棚の整頓をしていた男性店員を見つけると、そばに駆け寄り声をかけた。
「ガンコン?」
「はい」
「懐かしいな。昔は家庭用にもそういうゲームがあったけど、最近は見なくなったね」
「そう…ですか」
亜衣は「ありがとうございました」とお辞儀をすると、男性店員の元から離れる。
仕方なく帰ろうかと思ったとき、子連れの父親や男性店員がソワソワと視線を向けているのが気になった。
興味を惹かれた亜衣も、その視線の先を追いかけていく。
そこには、ひとりの女性が立っていた。
つばの広い白い帽子をかぶり、真っ白なワンピースとジーンズの上着を羽織っている。まるで深窓の令嬢を思わせるような、美しい女性であった。
亜衣はふと思い当たり、そばに近寄り確信する。
「浅野さん」
亜衣の声に、女性が驚いたように振り返った。その手には、戦隊モノの音が鳴って光る剣のオモチャを持っている。
「あら、上尾さん」
「そういうの…興味あるんですね」
言いながら亜衣は、浅野が手に持つ箱をジッと見つめた。
「え…?あ、ち…違うのよ!ただ見てただけで、ひとつも持ってないわよ!」
(持ってる反応だよね。どうみても)
亜衣がジト目で浅野を見つめる。
浅野は亜衣の疑いの視線に気付くと、観念したように「ハァ」と大きな溜め息をついた。
「私、上に兄が二人いてね、昔はいつも一緒に遊んでたの。親は女の子用のオモチャを勧めてくれるんだけど、私は兄と一緒にこういうのばかり欲しがっていたわ」
浅野が優しい瞳で、手に持つ箱をスッと撫でる。
「大きくなるにつれて、一緒に遊ぶ機会も無くなって、いつのまにか忘れていたのだけど…アッチの世界に行くようになってから、楽しかった想い出を急に思い出したの」
「それで気になって、買っちゃうんですね」
亜衣も優しく微笑んだ。
「う…」
浅野は赤面して言葉に詰まる。
「浅野さん、素敵です!」
そのとき亜衣が、瞳を輝かせて浅野に詰め寄った。
「私も浅野さんのような、子ども心をずっと忘れない大人になりたいです!」
「え…そ、そう?応援してるわ」
浅野は亜衣の圧力にたじろぎながら、帽子を深くかぶり直した。
現在ヨルド河より北部は魔物の勢力下にあり、この先に進軍するためには必ず奪還しなければならない重要な都市であった。
「信じられないコトですが、どこかの命知らずのバカが黒帝狼を討伐したという噂が、軍の方にも聞こえてきまして…」
坂下が呆れたように肩をすくめる。
「噂の真偽や魔物の襲撃分布を調査したりと、とにかく後方の憂いが無くなったことが確認出来れば、次はイバキ市奪還に向けて動きだすようです」
「へー偶然」
「私たちも討伐しましたよ、黒帝狼」
亜衣とお菊が顔を見合わせて「ねー」と笑った。
「……は?」
浅野がこちらでは珍しく、大きな声を出した。
「倒したって…黒帝狼を!?」
坂下も、思わず声が大きくなる。
「は…はい」
浅野と坂下の驚きように、お菊は身を竦めた。何かいけなかったのだろうか…?
「でも、だって。目潰しとかされなかった?」
「ああ…されました」
「された!?それでどうやって倒したんだ?」
「どうやってって、ねえ?」
「アレは亜衣が1人で倒したも同然ですよね?」
お菊とフランは顔を見合わせると、揃って亜衣の方に顔を向けた。
「…え?」
突然注目が一身に集まり、亜衣は思わず後退る。
「どうやってって、そんな…反復練習の賜物に決まってるじゃないですか」
亜衣は皆んなの視線の意味が分からず、困ったようにポリポリと頬を掻いた。
~~~
今日も18時にフランを水戸の元に送り届けると、亜衣とお菊もそのままそこで解散した。
しかし亜衣は真っ直ぐ家には帰らずに、駅前の家電量販店の中にある、オモチャ売り場「トイランド」へと立ち寄った。
それから亜衣は、陳列棚の整頓をしていた男性店員を見つけると、そばに駆け寄り声をかけた。
「ガンコン?」
「はい」
「懐かしいな。昔は家庭用にもそういうゲームがあったけど、最近は見なくなったね」
「そう…ですか」
亜衣は「ありがとうございました」とお辞儀をすると、男性店員の元から離れる。
仕方なく帰ろうかと思ったとき、子連れの父親や男性店員がソワソワと視線を向けているのが気になった。
興味を惹かれた亜衣も、その視線の先を追いかけていく。
そこには、ひとりの女性が立っていた。
つばの広い白い帽子をかぶり、真っ白なワンピースとジーンズの上着を羽織っている。まるで深窓の令嬢を思わせるような、美しい女性であった。
亜衣はふと思い当たり、そばに近寄り確信する。
「浅野さん」
亜衣の声に、女性が驚いたように振り返った。その手には、戦隊モノの音が鳴って光る剣のオモチャを持っている。
「あら、上尾さん」
「そういうの…興味あるんですね」
言いながら亜衣は、浅野が手に持つ箱をジッと見つめた。
「え…?あ、ち…違うのよ!ただ見てただけで、ひとつも持ってないわよ!」
(持ってる反応だよね。どうみても)
亜衣がジト目で浅野を見つめる。
浅野は亜衣の疑いの視線に気付くと、観念したように「ハァ」と大きな溜め息をついた。
「私、上に兄が二人いてね、昔はいつも一緒に遊んでたの。親は女の子用のオモチャを勧めてくれるんだけど、私は兄と一緒にこういうのばかり欲しがっていたわ」
浅野が優しい瞳で、手に持つ箱をスッと撫でる。
「大きくなるにつれて、一緒に遊ぶ機会も無くなって、いつのまにか忘れていたのだけど…アッチの世界に行くようになってから、楽しかった想い出を急に思い出したの」
「それで気になって、買っちゃうんですね」
亜衣も優しく微笑んだ。
「う…」
浅野は赤面して言葉に詰まる。
「浅野さん、素敵です!」
そのとき亜衣が、瞳を輝かせて浅野に詰め寄った。
「私も浅野さんのような、子ども心をずっと忘れない大人になりたいです!」
「え…そ、そう?応援してるわ」
浅野は亜衣の圧力にたじろぎながら、帽子を深くかぶり直した。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる