中2女子が夏休みに、異世界を救うことになりました!〜RPGにようこそ〜

さこゼロ

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第2章

2日目終了 5

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イバキ市はネヤガー市の対岸、ヒクエン大橋を渡った先にある。

現在ヨルド河より北部は魔物の勢力下にあり、この先に進軍するためには必ず奪還しなければならない重要な都市であった。

「信じられないコトですが、どこかの命知らずのバカが黒帝狼を討伐したという噂が、軍の方にも聞こえてきまして…」

坂下が呆れたように肩をすくめる。

「噂の真偽や魔物の襲撃分布を調査したりと、とにかく後方の憂いが無くなったことが確認出来れば、次はイバキ市奪還に向けて動きだすようです」

「へー偶然」
「私たちも討伐しましたよ、黒帝狼」

亜衣とお菊が顔を見合わせて「ねー」と笑った。

「……は?」

浅野がこちらでは珍しく、大きな声を出した。

「倒したって…黒帝狼を!?」

坂下も、思わず声が大きくなる。

「は…はい」

浅野と坂下の驚きように、お菊は身を竦めた。何かいけなかったのだろうか…?

「でも、だって。目潰しとかされなかった?」

「ああ…されました」

「された!?それでどうやって倒したんだ?」

「どうやってって、ねえ?」

「アレは亜衣が1人で倒したも同然ですよね?」

お菊とフランは顔を見合わせると、揃って亜衣の方に顔を向けた。

「…え?」

突然注目が一身に集まり、亜衣は思わず後退る。

「どうやってって、そんな…反復練習の賜物に決まってるじゃないですか」

亜衣は皆んなの視線の意味が分からず、困ったようにポリポリと頬を掻いた。

   ~~~

今日も18時にフランを水戸の元に送り届けると、亜衣とお菊もそのままそこで解散した。

しかし亜衣は真っ直ぐ家には帰らずに、駅前の家電量販店の中にある、オモチャ売り場「トイランド」へと立ち寄った。

それから亜衣は、陳列棚の整頓をしていた男性店員を見つけると、そばに駆け寄り声をかけた。

「ガンコン?」

「はい」

「懐かしいな。昔は家庭用にもそういうゲームがあったけど、最近は見なくなったね」

「そう…ですか」

亜衣は「ありがとうございました」とお辞儀をすると、男性店員の元から離れる。

仕方なく帰ろうかと思ったとき、子連れの父親や男性店員がソワソワと視線を向けているのが気になった。

興味を惹かれた亜衣も、その視線の先を追いかけていく。

そこには、ひとりの女性が立っていた。

つばの広い白い帽子をかぶり、真っ白なワンピースとジーンズの上着を羽織っている。まるで深窓の令嬢を思わせるような、美しい女性であった。

亜衣はふと思い当たり、そばに近寄り確信する。

「浅野さん」

亜衣の声に、女性が驚いたように振り返った。その手には、戦隊モノの音が鳴って光る剣のオモチャを持っている。

「あら、上尾うえおさん」

「そういうの…興味あるんですね」

言いながら亜衣は、浅野が手に持つ箱をジッと見つめた。

「え…?あ、ち…違うのよ!ただ見てただけで、ひとつも持ってないわよ!」

(持ってる反応ヤツだよね。どうみても)

亜衣がジト目で浅野を見つめる。

浅野は亜衣の疑いの視線に気付くと、観念したように「ハァ」と大きな溜め息をついた。

「私、上に兄が二人いてね、昔はいつも一緒に遊んでたの。親は女の子用のオモチャを勧めてくれるんだけど、私は兄と一緒にこういうのばかり欲しがっていたわ」

浅野が優しい瞳で、手に持つ箱をスッと撫でる。

「大きくなるにつれて、一緒に遊ぶ機会も無くなって、いつのまにか忘れていたのだけど…アッチの世界に行くようになってから、楽しかった想い出を急に思い出したの」

「それで気になって、買っちゃうんですね」

亜衣も優しく微笑んだ。

「う…」

浅野は赤面して言葉に詰まる。

「浅野さん、素敵です!」

そのとき亜衣が、瞳を輝かせて浅野に詰め寄った。

「私も浅野さんのような、子ども心をずっと忘れない大人になりたいです!」

「え…そ、そう?応援してるわ」

浅野は亜衣の圧力にたじろぎながら、帽子を深くかぶり直した。
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