上 下
55 / 98
第2章

2日目終了 2

しおりを挟む
黒帝狼に目を奪われてしまいがちだが、5体の石撃鴉というのも半端な存在ではない。

相手が1体ならそれ程の脅威ではないのだが、石撃鴉は複数で編隊を組む特性がある。石の飛礫による同時攻撃は、脅威と言わざるを得ない。

上空を旋回し、高威力の遠距離攻撃を淡々と繰り返すだけの魔物だが、それ故に真っ向勝負以外の対処がない。相手の攻撃を凌ぎきり、遠距離攻撃で打ち勝たなければならないのだ。

撃破したとなると、高い防御力と強力な遠距離攻撃が可能だったことを意味する。

エリサはひとつの決心をしたが、ここでは何も言わずに業務に専念した。

「皆さんはC級ですから、灰色狼1体5千マール、黒帝狼1体20万マール、石撃鴉1体8千マールですので、27万5千マールになります」

「ホントにこんなに貰っていいの?」

アイはちょっと怖くなった。他のふたりも似たような心境である。

「何を言ってるんですか。階級が上がれば、もっと貰えるんですよ」

エリサは「アハハ」と明るく笑った。

3人は顔を見合わせると、「ハハハ」と愛想笑いを返すのが精一杯であった。

「今日はいくらか現金化しますか?」

「あー…」

おキクは少し考えたが、この後は帰るだけだから今は必要ないかと思い当たる。

「今は必要ないです。またにします」

「かしこまりました」

エリサは笑って頷いた。それから姿勢を正すと、少し表情を改める。

「皆さん、この後少し時間ありますか?」

「…え?」

「よければ少し…お話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

「あ、はい。大丈夫です」

おキクはエリサの改まった雰囲気に、少し緊張した面持ちで頷いた。

   ~~~

エリサは二階にある宿泊部屋の一室に、皆を連れて案内した。室内は簡素な造りとなっており、ベッドと小さな冷蔵庫、それとひと組の丸テーブルとイスが並んでいる。外側の壁には窓がひとつで、今はカーテンが閉まっている。どうやらシングル用の部屋であった。

エリサは冷蔵庫の中にある小ビンの飲み物を取り出すと、全員の手元に順に配った。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

3人はエリサに感謝を述べると、そのまま飲み物を口にする。アイはグイッと一気に飲み干し、「プハー」と大きく息をついた。

エリサは「フフッ」と愛おしそうに微笑むと、一呼吸おいてから話を切り出した。

「まず初めに言っておきますが…コレは完全に、私の個人的な興味です」

「…はあ」

3人は揃えたように曖昧な相づちを打つ。

「単刀直入に聞きます。あなた方は何者ですか?」

エリサの真剣な眼差しに、アイとおキクは焦ったように目を逸らした。

「どういう意味ですか?」

フランが一歩進み出ると、エリサを見上げるように質問を返した。

「フランさんたちは自分たちのことをとても過小評価していますが、いち冒険者としてはあり得ない戦果を、何度も上げているのですよ」

「え?」

フランはエリサの言葉にキョトンとする。

「あなた方の戦果は、遠距離攻撃の手段が洋弓銃クロスボウでは到底成し得ません。私の勘ではアイさんの武器は…もっと別の何かです!」

エリサはアイを指差し、ビシッと決めた。

3人は顔を伏せて「ぐ…っ」と押し黙る。

「あ、違います!違います!」

それに気付いたエリサが慌ててフォローした。

「私は皆さんの味方になりたいのです。問い詰めて、どうにかしようとかの話ではありません」

「味方…?」

「はい!皆さんの存在は、私にとってはとても大きな希望なんです。だから是非、皆さんの役に立ちたいのです!」

「希望って、そんな大袈裟な…」

おキクがエリサの物言いに唖然とする。

「大袈裟でも何でもありません!」

しかしエリサは折れなかった。

「……エリサさん、聞いても笑わないって約束してくれる?」

そのときアイが、真顔でエリサを見上げた。

「笑いません」

エリサの真剣な表情にアイは頷くと、おキクとフランの顔を見た。ふたりも異論は唱えない。

それからアイは、もう一度エリサに向き直ると、ゆっくり口を開いた。

「実は私たち…異世界人なんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

骸骨殿下の婚約者

白乃いちじく
ファンタジー
私が彼に会ったのは、九才の時。雨の降る町中だった。 魔術師の家系に生まれて、魔力を持たない私はいらない子として、家族として扱われたことは一度もない。  ――ね、君、僕の助手になる気ある? 彼はそう言って、私に家と食事を与えてくれた。 この時の私はまだ知らない。 骸骨の姿をしたこの魔術師が、この国の王太子、稀代の魔術師と言われるその人だったとは。 ***各章ごとに話は完結しています。お気軽にどうぞ♪***

超越者となったおっさんはマイペースに異世界を散策する

神尾優
ファンタジー
山田博(やまだひろし)42歳、独身は年齢制限十代の筈の勇者召喚に何故か選出され、そこで神様曰く大当たりのチートスキル【超越者】を引き当てる。他の勇者を大きく上回る力を手に入れた山田博は勇者の使命そっちのけで異世界の散策を始める。 他の作品の合間にノープランで書いている作品なのでストックが無くなった後は不規則投稿となります。1話の文字数はプロローグを除いて1000文字程です。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。 姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。 対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。 能力も乏しく、学問の才能もない無能。 侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。 人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。 姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。 そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。

処理中です...