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第2章
2日目終了 2
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黒帝狼に目を奪われてしまいがちだが、5体の石撃鴉というのも半端な存在ではない。
相手が1体ならそれ程の脅威ではないのだが、石撃鴉は複数で編隊を組む特性がある。石の飛礫による同時攻撃は、脅威と言わざるを得ない。
上空を旋回し、高威力の遠距離攻撃を淡々と繰り返すだけの魔物だが、それ故に真っ向勝負以外の対処がない。相手の攻撃を凌ぎきり、遠距離攻撃で打ち勝たなければならないのだ。
撃破したとなると、高い防御力と強力な遠距離攻撃が可能だったことを意味する。
エリサはひとつの決心をしたが、ここでは何も言わずに業務に専念した。
「皆さんはC級ですから、灰色狼1体5千マール、黒帝狼1体20万マール、石撃鴉1体8千マールですので、27万5千マールになります」
「ホントにこんなに貰っていいの?」
アイはちょっと怖くなった。他のふたりも似たような心境である。
「何を言ってるんですか。階級が上がれば、もっと貰えるんですよ」
エリサは「アハハ」と明るく笑った。
3人は顔を見合わせると、「ハハハ」と愛想笑いを返すのが精一杯であった。
「今日はいくらか現金化しますか?」
「あー…」
おキクは少し考えたが、この後は帰るだけだから今は必要ないかと思い当たる。
「今は必要ないです。またにします」
「かしこまりました」
エリサは笑って頷いた。それから姿勢を正すと、少し表情を改める。
「皆さん、この後少し時間ありますか?」
「…え?」
「よければ少し…お話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
おキクはエリサの改まった雰囲気に、少し緊張した面持ちで頷いた。
~~~
エリサは二階にある宿泊部屋の一室に、皆を連れて案内した。室内は簡素な造りとなっており、ベッドと小さな冷蔵庫、それとひと組の丸テーブルとイスが並んでいる。外側の壁には窓がひとつで、今はカーテンが閉まっている。どうやらシングル用の部屋であった。
エリサは冷蔵庫の中にある小ビンの飲み物を取り出すと、全員の手元に順に配った。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
3人はエリサに感謝を述べると、そのまま飲み物を口にする。アイはグイッと一気に飲み干し、「プハー」と大きく息をついた。
エリサは「フフッ」と愛おしそうに微笑むと、一呼吸おいてから話を切り出した。
「まず初めに言っておきますが…コレは完全に、私の個人的な興味です」
「…はあ」
3人は揃えたように曖昧な相づちを打つ。
「単刀直入に聞きます。あなた方は何者ですか?」
エリサの真剣な眼差しに、アイとおキクは焦ったように目を逸らした。
「どういう意味ですか?」
フランが一歩進み出ると、エリサを見上げるように質問を返した。
「フランさんたちは自分たちのことをとても過小評価していますが、いち冒険者としてはあり得ない戦果を、何度も上げているのですよ」
「え?」
フランはエリサの言葉にキョトンとする。
「あなた方の戦果は、遠距離攻撃の手段が洋弓銃では到底成し得ません。私の勘ではアイさんの武器は…もっと別の何かです!」
エリサはアイを指差し、ビシッと決めた。
3人は顔を伏せて「ぐ…っ」と押し黙る。
「あ、違います!違います!」
それに気付いたエリサが慌ててフォローした。
「私は皆さんの味方になりたいのです。問い詰めて、どうにかしようとかの話ではありません」
「味方…?」
「はい!皆さんの存在は、私にとってはとても大きな希望なんです。だから是非、皆さんの役に立ちたいのです!」
「希望って、そんな大袈裟な…」
おキクがエリサの物言いに唖然とする。
「大袈裟でも何でもありません!」
しかしエリサは折れなかった。
「……エリサさん、聞いても笑わないって約束してくれる?」
そのときアイが、真顔でエリサを見上げた。
「笑いません」
エリサの真剣な表情にアイは頷くと、おキクとフランの顔を見た。ふたりも異論は唱えない。
それからアイは、もう一度エリサに向き直ると、ゆっくり口を開いた。
「実は私たち…異世界人なんだ」
相手が1体ならそれ程の脅威ではないのだが、石撃鴉は複数で編隊を組む特性がある。石の飛礫による同時攻撃は、脅威と言わざるを得ない。
上空を旋回し、高威力の遠距離攻撃を淡々と繰り返すだけの魔物だが、それ故に真っ向勝負以外の対処がない。相手の攻撃を凌ぎきり、遠距離攻撃で打ち勝たなければならないのだ。
撃破したとなると、高い防御力と強力な遠距離攻撃が可能だったことを意味する。
エリサはひとつの決心をしたが、ここでは何も言わずに業務に専念した。
「皆さんはC級ですから、灰色狼1体5千マール、黒帝狼1体20万マール、石撃鴉1体8千マールですので、27万5千マールになります」
「ホントにこんなに貰っていいの?」
アイはちょっと怖くなった。他のふたりも似たような心境である。
「何を言ってるんですか。階級が上がれば、もっと貰えるんですよ」
エリサは「アハハ」と明るく笑った。
3人は顔を見合わせると、「ハハハ」と愛想笑いを返すのが精一杯であった。
「今日はいくらか現金化しますか?」
「あー…」
おキクは少し考えたが、この後は帰るだけだから今は必要ないかと思い当たる。
「今は必要ないです。またにします」
「かしこまりました」
エリサは笑って頷いた。それから姿勢を正すと、少し表情を改める。
「皆さん、この後少し時間ありますか?」
「…え?」
「よければ少し…お話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
おキクはエリサの改まった雰囲気に、少し緊張した面持ちで頷いた。
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エリサは二階にある宿泊部屋の一室に、皆を連れて案内した。室内は簡素な造りとなっており、ベッドと小さな冷蔵庫、それとひと組の丸テーブルとイスが並んでいる。外側の壁には窓がひとつで、今はカーテンが閉まっている。どうやらシングル用の部屋であった。
エリサは冷蔵庫の中にある小ビンの飲み物を取り出すと、全員の手元に順に配った。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
3人はエリサに感謝を述べると、そのまま飲み物を口にする。アイはグイッと一気に飲み干し、「プハー」と大きく息をついた。
エリサは「フフッ」と愛おしそうに微笑むと、一呼吸おいてから話を切り出した。
「まず初めに言っておきますが…コレは完全に、私の個人的な興味です」
「…はあ」
3人は揃えたように曖昧な相づちを打つ。
「単刀直入に聞きます。あなた方は何者ですか?」
エリサの真剣な眼差しに、アイとおキクは焦ったように目を逸らした。
「どういう意味ですか?」
フランが一歩進み出ると、エリサを見上げるように質問を返した。
「フランさんたちは自分たちのことをとても過小評価していますが、いち冒険者としてはあり得ない戦果を、何度も上げているのですよ」
「え?」
フランはエリサの言葉にキョトンとする。
「あなた方の戦果は、遠距離攻撃の手段が洋弓銃では到底成し得ません。私の勘ではアイさんの武器は…もっと別の何かです!」
エリサはアイを指差し、ビシッと決めた。
3人は顔を伏せて「ぐ…っ」と押し黙る。
「あ、違います!違います!」
それに気付いたエリサが慌ててフォローした。
「私は皆さんの味方になりたいのです。問い詰めて、どうにかしようとかの話ではありません」
「味方…?」
「はい!皆さんの存在は、私にとってはとても大きな希望なんです。だから是非、皆さんの役に立ちたいのです!」
「希望って、そんな大袈裟な…」
おキクがエリサの物言いに唖然とする。
「大袈裟でも何でもありません!」
しかしエリサは折れなかった。
「……エリサさん、聞いても笑わないって約束してくれる?」
そのときアイが、真顔でエリサを見上げた。
「笑いません」
エリサの真剣な表情にアイは頷くと、おキクとフランの顔を見た。ふたりも異論は唱えない。
それからアイは、もう一度エリサに向き直ると、ゆっくり口を開いた。
「実は私たち…異世界人なんだ」
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