41 / 98
第2章
ヤータ市防衛戦 4
しおりを挟む
アイとソアラが麓まで下りてきたとき、ひとりの女性が近寄ってきた。
癖のない金髪のボブヘア、黒い瞳の大きな目には縁なし眼鏡をかけている。シワの無い黒の長衣を身に纏い、肩には白いストールを巻いていた。背丈はアイと同じくらい。充分に美女なのだが、彼女のなかで一際目を惹くところは、自己主張の激しい…その胸の存在であった。
「ソアラさま、ご無事で良かった」
「シスト、アナタも無事でなにより。ザキとドーンも無事なのかしら?」
ソアラは道中で、アイから魔物の襲撃に関して、ある程度の説明を受けていた。
「おふたりとも今は無事です。しかしトリモチが底をつき、多くの冒険者が逃亡してしまったため、かなり厳しい状況です」
軍隊と違い、個の集団である冒険者の弱点が露見したカタチである。勝ち目の薄い戦いに、生命を懸けて臨める冒険者は少ない。
「今はドーンさまと、防護魔法に秀でた数名の魔法士が敵の攻撃を一身に引き受け、市民への被害は出ていませんが、それも恐らく時間の問題です」
「シストも皆の援護に戻りなさい。この子の用事を済ませたら、すぐに私も合流します」
ソアラはシストに指示を出すと、アイとともに再び走り始めた。
~~~
「お願い、ソアラさん。コレを燃やして」
アイは会場内の組み木にソアラを案内すると、組み木を指差しながらそう言った。
「は…?」
ソアラは一瞬呆けたが、すぐに我にかえる。
「アナタ、この非常時に何を言ってるの!」
「必要なことなの!お願いします」
アイは精一杯に頭を下げた。
「何なのよ、アナタたち…」
ソアラは軽く溜め息をつくと「離れてなさい」とアイを退がらせた。それから魔法杖を顔の前で縦に構えると、一気に上に振り上げた。
「地獄の業火!」
組み木の真下に魔法陣が広がると、炎の柱が噴き上がる。一瞬で組み木の丸太が燃え上がり始めた。
「コレでいいかしら?」
「ありがとう!」
アイは瞳を輝かせてソアラに感謝の意を伝える。
ソアラはアイの真っ直ぐなその瞳に、思わずたじろいだ。
(本当に調子が狂う…)
そんなソアラの態度に気付かず、アイは燃え上がる炎の前に移動する。
「アイ、熱量と威力は比例します。可能な限り近付いてください」
「分かった」
セーレーの説明を受けて、アイは更に一歩踏み込んで、炎に向けて右手をかざした。
「バーストバレット!」
アイの右手と炎の間に魔法陣が浮かび上がる。
「アチッ、熱い!なんかいつもより長くない?」
炎の熱や飛び散る火の粉に晒されて、アイはその場で足踏みを繰り返した。
「ゲージが溜まるまで時間がかかります。我慢してください」
「熱いアツイ!もう限界!」
アイのギブアップの寸前に、読み取り完了のサインが伝わり正四面体が出現する。アイはそれを掴み取ると、転がるようにそこから離れた。
それからアイは、握りしめていたSDカードを短銃のグリップエンドに差し込む。すると短銃が、まばゆい光を放ち始めた。
(一体何を…やっているの?)
ソアラは只々、アイの姿を呆然と眺めていた。
~~~
アイとソアラが冒険者たちの元に戻ったとき、その人数はさらに減っていた。
2人の魔法士が傷つき倒れており、シストがそばで癒しの魔法をかけていた。
そのシストを守るように、ザキとドーンが左右に別れて立っている。
ザキは背中まで伸びた焦げ茶色の髪をゴムで無造作に束ねた、つり目の顔した長身男性である。青色の胸甲鎧の下には、薄紫色のシャツとズボンを着ている。そして両手に短刀を持つ、二刀流の剣士であった。
ドーンはドワーフの流れを汲む、小柄で骨太な体格の男性である。日に焼けた褐色の肌、黒い短髪にモジャモジャの黒髭。灰色の甲冑鎧を身に纏い、円形の大きな盾と斧を装備する重戦士だ。
風切鳥の数も減ってはいたが、まだまだ上空には多く残っている。頭上を飛び回る魔物の数と、更に疲れも相まって、残った冒険者たちの士気の低下は著しいものであった。
癖のない金髪のボブヘア、黒い瞳の大きな目には縁なし眼鏡をかけている。シワの無い黒の長衣を身に纏い、肩には白いストールを巻いていた。背丈はアイと同じくらい。充分に美女なのだが、彼女のなかで一際目を惹くところは、自己主張の激しい…その胸の存在であった。
「ソアラさま、ご無事で良かった」
「シスト、アナタも無事でなにより。ザキとドーンも無事なのかしら?」
ソアラは道中で、アイから魔物の襲撃に関して、ある程度の説明を受けていた。
「おふたりとも今は無事です。しかしトリモチが底をつき、多くの冒険者が逃亡してしまったため、かなり厳しい状況です」
軍隊と違い、個の集団である冒険者の弱点が露見したカタチである。勝ち目の薄い戦いに、生命を懸けて臨める冒険者は少ない。
「今はドーンさまと、防護魔法に秀でた数名の魔法士が敵の攻撃を一身に引き受け、市民への被害は出ていませんが、それも恐らく時間の問題です」
「シストも皆の援護に戻りなさい。この子の用事を済ませたら、すぐに私も合流します」
ソアラはシストに指示を出すと、アイとともに再び走り始めた。
~~~
「お願い、ソアラさん。コレを燃やして」
アイは会場内の組み木にソアラを案内すると、組み木を指差しながらそう言った。
「は…?」
ソアラは一瞬呆けたが、すぐに我にかえる。
「アナタ、この非常時に何を言ってるの!」
「必要なことなの!お願いします」
アイは精一杯に頭を下げた。
「何なのよ、アナタたち…」
ソアラは軽く溜め息をつくと「離れてなさい」とアイを退がらせた。それから魔法杖を顔の前で縦に構えると、一気に上に振り上げた。
「地獄の業火!」
組み木の真下に魔法陣が広がると、炎の柱が噴き上がる。一瞬で組み木の丸太が燃え上がり始めた。
「コレでいいかしら?」
「ありがとう!」
アイは瞳を輝かせてソアラに感謝の意を伝える。
ソアラはアイの真っ直ぐなその瞳に、思わずたじろいだ。
(本当に調子が狂う…)
そんなソアラの態度に気付かず、アイは燃え上がる炎の前に移動する。
「アイ、熱量と威力は比例します。可能な限り近付いてください」
「分かった」
セーレーの説明を受けて、アイは更に一歩踏み込んで、炎に向けて右手をかざした。
「バーストバレット!」
アイの右手と炎の間に魔法陣が浮かび上がる。
「アチッ、熱い!なんかいつもより長くない?」
炎の熱や飛び散る火の粉に晒されて、アイはその場で足踏みを繰り返した。
「ゲージが溜まるまで時間がかかります。我慢してください」
「熱いアツイ!もう限界!」
アイのギブアップの寸前に、読み取り完了のサインが伝わり正四面体が出現する。アイはそれを掴み取ると、転がるようにそこから離れた。
それからアイは、握りしめていたSDカードを短銃のグリップエンドに差し込む。すると短銃が、まばゆい光を放ち始めた。
(一体何を…やっているの?)
ソアラは只々、アイの姿を呆然と眺めていた。
~~~
アイとソアラが冒険者たちの元に戻ったとき、その人数はさらに減っていた。
2人の魔法士が傷つき倒れており、シストがそばで癒しの魔法をかけていた。
そのシストを守るように、ザキとドーンが左右に別れて立っている。
ザキは背中まで伸びた焦げ茶色の髪をゴムで無造作に束ねた、つり目の顔した長身男性である。青色の胸甲鎧の下には、薄紫色のシャツとズボンを着ている。そして両手に短刀を持つ、二刀流の剣士であった。
ドーンはドワーフの流れを汲む、小柄で骨太な体格の男性である。日に焼けた褐色の肌、黒い短髪にモジャモジャの黒髭。灰色の甲冑鎧を身に纏い、円形の大きな盾と斧を装備する重戦士だ。
風切鳥の数も減ってはいたが、まだまだ上空には多く残っている。頭上を飛び回る魔物の数と、更に疲れも相まって、残った冒険者たちの士気の低下は著しいものであった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる