中2女子が夏休みに、異世界を救うことになりました!〜RPGにようこそ〜

さこゼロ

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第2章

ヤータ市防衛戦 4

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アイとソアラが麓まで下りてきたとき、ひとりの女性が近寄ってきた。

癖のない金髪のボブヘア、黒い瞳の大きな目には縁なし眼鏡をかけている。シワの無い黒の長衣を身に纏い、肩には白いストールを巻いていた。背丈はアイと同じくらい。充分に美女なのだが、彼女のなかで一際目を惹くところは、自己主張の激しい…その胸の存在であった。

「ソアラさま、ご無事で良かった」

「シスト、アナタも無事でなにより。ザキとドーンも無事なのかしら?」

ソアラは道中で、アイから魔物の襲撃に関して、ある程度の説明を受けていた。

「おふたりとも今は無事です。しかしトリモチが底をつき、多くの冒険者が逃亡してしまったため、かなり厳しい状況です」

軍隊と違い、個の集団である冒険者の弱点が露見したカタチである。勝ち目の薄い戦いに、生命を懸けて臨める冒険者は少ない。

「今はドーンさまと、防護魔法に秀でた数名の魔法士が敵の攻撃を一身に引き受け、市民への被害は出ていませんが、それも恐らく時間の問題です」

「シストも皆の援護に戻りなさい。この子の用事を済ませたら、すぐに私も合流します」

ソアラはシストに指示を出すと、アイとともに再び走り始めた。

   ~~~

「お願い、ソアラさん。コレを燃やして」

アイは会場内の組み木にソアラを案内すると、組み木を指差しながらそう言った。

「は…?」

ソアラは一瞬呆けたが、すぐに我にかえる。

「アナタ、この非常時に何を言ってるの!」

「必要なことなの!お願いします」

アイは精一杯に頭を下げた。

「何なのよ、アナタたち…」

ソアラは軽く溜め息をつくと「離れてなさい」とアイを退がらせた。それから魔法杖を顔の前で縦に構えると、一気に上に振り上げた。

地獄の業火ヘルフレイム!」

組み木の真下に魔法陣が広がると、炎の柱が噴き上がる。一瞬で組み木の丸太が燃え上がり始めた。

「コレでいいかしら?」

「ありがとう!」

アイは瞳を輝かせてソアラに感謝の意を伝える。

ソアラはアイの真っ直ぐなその瞳に、思わずたじろいだ。

(本当に調子が狂う…)

そんなソアラの態度に気付かず、アイは燃え上がる炎の前に移動する。

「アイ、熱量と威力は比例します。可能な限り近付いてください」

「分かった」

セーレーの説明を受けて、アイは更に一歩踏み込んで、炎に向けて右手をかざした。

「バーストバレット!」

アイの右手と炎の間に魔法陣が浮かび上がる。

「アチッ、熱い!なんかいつもより長くない?」

炎の熱や飛び散る火の粉に晒されて、アイはその場で足踏みを繰り返した。

「ゲージが溜まるまで時間がかかります。我慢してください」

「熱いアツイ!もう限界!」

アイのギブアップの寸前に、読み取り完了のサインが伝わり正四面体が出現する。アイはそれを掴み取ると、転がるようにそこから離れた。

それからアイは、握りしめていたSDカードを短銃のグリップエンドに差し込む。すると短銃が、まばゆい光を放ち始めた。

(一体何を…やっているの?)

ソアラは只々、アイの姿を呆然と眺めていた。

   ~~~

アイとソアラが冒険者たちの元に戻ったとき、その人数はさらに減っていた。

2人の魔法士が傷つき倒れており、シストがそばで癒しの魔法キュアをかけていた。

そのシストを守るように、ザキとドーンが左右に別れて立っている。

ザキは背中まで伸びた焦げ茶色の髪をゴムで無造作に束ねた、つり目の顔した長身男性である。青色の胸甲鎧ブレストアーマーの下には、薄紫色のシャツとズボンを着ている。そして両手に短刀カトラスを持つ、二刀流の剣士であった。

ドーンはドワーフの流れを汲む、小柄で骨太な体格の男性である。日に焼けた褐色の肌、黒い短髪にモジャモジャの黒髭。灰色の甲冑鎧プレートアーマーを身に纏い、円形の大きな盾と斧を装備する重戦士だ。

風切鳥の数も減ってはいたが、まだまだ上空には多く残っている。頭上を飛び回る魔物の数と、更に疲れも相まって、残った冒険者たちの士気の低下は著しいものであった。
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