中2女子が夏休みに、異世界を救うことになりました!〜RPGにようこそ〜

さこゼロ

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第2章

ヤータ市防衛戦 2

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「1体の魔物を検知しました。魔操鎧です」

ミーコがおキクとフランを先導しながら、チラリとこちらに振り返った。

「ですが、アイの反応を見失いました。生存者1名が間もなく魔物と接触します」

「どどど、どういうこと?まさか…殺されたの?」

おキクは気が動転して目がグルグルと渦を巻く。そのまま足の力が抜けて倒れそうになるところを、フランに何とか支えられた。

「おキク、落ち着いて!」

「どうやらアイは敗退したようです。強制送還させられました」

ミーコの言葉におキクは「あ!」と声を漏らす。そして冷静さを取り戻すために、何度も大きく深呼吸をした。

「思惑は外れたけど、魔物は放っておけないね」

落ち着きを取り戻したおキクは、フランの方に顔を向ける。

「フランもいいよね?」

フランはおキクの質問の意図を理解し、黙ってゆっくり頷いた。

   ~~~

アイがメイン会場に帰還した時、辺りは騒然としていた。

「何かあったの?」

「魔物の大規模襲撃です」

アイの疑問にセーレーが即座に答える。

「いつから…知ってたの?」

アイは大慌てで右往左往する住民たちを見つめながら、ボソッと小声で呟いた。

「始めからです。私の任務の性質上、転位者を魔物の襲撃地点から遠ざけるようなアドバイスはいたしません」

「そういう意味じゃない!もっと早く知ってれば、ちゃんと色々準備出来た!」

「それはアイの言葉に何の力もないからです。ただの少女が『魔物が来る』と警告したところで、誰も信じはしません」

セーレーのその言葉に、アイは顔を真っ赤にして唇を噛みしめる。

「それ故にサトーは、リスク予報をラング国に提出しているのです。理解してください」

「……悔しい」

アイは拳を握りしめて俯いた。

「私はやっぱり…何も出来ない」

「それでも私は、アイがこの世界を救う英雄だと信じています」

セーレーの口調はいつも通りだが、何故だか言葉に熱を感じた。

「き、来た!」

そのとき、慌ただしく動き回る人々の中で、ひとりの若者が空を指差す。

その指先の遠い空に黒い点が無数に現れ、だんだんとこちらに近付いて来ていた。

   ~~~

火炎小銃フレイムバルカン!」

小型の火炎弾が雨のように魔操鎧を打ち付けた。

しかしそんな攻撃など意にも介さず、魔操鎧がソアラとの距離を一気に詰める。そしてソアラの懐近くに足を踏み入れた瞬間、魔操鎧の右足が爆発で吹き飛んだ。

ソアラを中心に広がっていた魔法陣が、役目を終えたように消滅していく。

間髪入れず、ソアラは脱兎の如く逃走を開始した。魔操鎧は魔法では倒せない。そんな事は誰でも知ってる常識である。

しかしその直後、ソアラの足元の地面が爆発したように爆ぜた。その衝撃に足を取られ、ソアラはそのまま前のめりに転倒する。

「一体…何事ですの?」

ソアラが四つん這いで振り返ると、魔操鎧の持っていた鎚矛メイスが、深々と地面に突き刺さっていた。

更にその向こう側に、コチラに向かって歩いてくる魔操鎧の姿が目に入る。吹き飛ばした筈の右足も綺麗に修復されていた。

ソアラは急いで立ち上がると、もう一度走り出そうと一歩踏み出す。しかし次の瞬間、左足に激痛が走りよろめきながら倒れ込んだ。

「く…っ」

ソアラが上半身を起こして顔を上げると、鎚矛を拾い上げた魔操鎧が、もう目前に迫っていた。

「この私が…こんな無様な戦い方をするなんて」

右手の鎚矛を頭上に振り上げる魔操鎧の姿を見上げながら、ソアラは諦めたように呟いた。

無慈悲に鎚矛が振り下ろされたその瞬間、ソアラの眼前を大きな影が覆い、その攻撃を弾き返した。

「ソアラさん!」

聞き覚えのある声がソアラの耳に届く。声の方に顔を向けると、そこにはフランの姿が見えた。

自分を救ってくれた大きな影は、フランの盾だったのだとそのとき気付く。

風に覆われたフランの盾は、ソアラを守るように浮遊していた。フランの風の舞姫シルフィダンスの効果である。

おキクは魔操鎧に駆け寄ると、両手剣の一閃で首を刎ね飛ばした。

しかし魔操鎧は一切怯むことなく、鎚矛をおキクに向けて振り下ろす。

「おキク、まだです!」

ミーコの焦った声がおキクに届くが、あまりに予想外の展開に、おキクは身動きが取れなかった。

ガキーン!

おキクが殴りつけられる寸前に、フランの盾が魔操鎧の攻撃を再び弾き返す。

この攻防の間に、地面に転がっていた魔操鎧の首がフワリと浮き上がり、元の鞘に収まった。

「おキク、魔力核はお腹の中心です」

「それを早く言ってよ!」

おキクはミーコに抗議を訴えながら、盾の陰から一気に飛び出す。それから魔操鎧のお腹部分を、真一文字に斬り裂いた。

その一撃で魔操鎧はガラガラと崩れさり、もう修復されることはなかった。

ソアラはポカンとしながらフランを見る。

「フランさん。コレは本当にアナタの盾なの?」

(…第一声がそれ?)

おキクはソアラに、思わず白い目を向けた。
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