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第2章
ロングレンジフェス 8
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アイがメイン会場に戻ってくると、ソアラが待ち構えていた。そして、楽しそうに微笑む。
「どうやら生き残ったようね。魔法士でもないのに大したものだわ。どんな手品を使ったのかしら?」
「言われてみれば、ちょっとセコイ手を使ったかもね」
セーレーを数えれば、コッチは二人組ということになるかもしれない。しかし、この不利な状況を覆すには、セーレーの援助は必要不可欠である。そこは目を瞑ることにした。
「余裕を見せていられるのも今のうちですわよ。それを次で証明して差し上げます」
ソアラはフンと鼻を鳴らすと、踵を返して去っていった。
入れ替わるように、おキクとフランがアイの元にやって来た。
「はい、差し入れ」
おキクはフランクフルト(?)をアイに渡した。
「これ、どうしたの?」
「フランの奢り。結構いけるよ」
どうやらフランとおキクは実食済のようである。
「助かるよ。山道走るの結構ハードでさ」
アイはペロリと平らげた。
「フランのお陰で元気でたよ。あとは私に任せて」
「うん。任せる」
3人は顔を見合わせると、笑顔で拳をコツンと突き合わせた。
~~~
決勝が始まり、参加者は山の中に転送された。
相手は予選を勝ち抜いた者たちである。アイは激戦を予想し、気合いを入れ直した。
「多数の冒険者が次々と退場していきます」
「…え?」
「もう半数近くが退場させられました」
「どうなってるの?」
予想外の展開にアイは呆然とする。
「索敵魔法に長けた魔法士がいるようです。相手に気付かれることなく、一方的に倒しています」
前半組の予選がすぐに終わった理由が、アイにもやっと理解出来た。
「アイ、左方向へ移動してください。退場者の分布から判断するに、相手は右方向から迫っています」
アイは直ぐさま左方向へ走った。念のため後方の確認も忘れない。
「攻撃きます」
セーレーの突然の警告に、アイは咄嗟にヘッドスライディングのように飛び込んだ。
直後、さっきまでアイがいた場所の地面に魔法陣が浮かび上がり、そこから火柱が噴き上がる。
「アイ、謝罪します。どうやら相手の索敵能力を見誤りました」
「…え?」
セーレーの謝罪なんて初めて聞いた。
「今の攻撃で、私たち以外は全滅です。そのうえ相手の…」
「発動した魔法を躱すなんて、信じられないことをするわね」
聞き覚えのある声がセーレーの言葉を遮った。アイはうつ伏せの体勢のまま、声のした方向に顔だけ向ける。
「そのうえ相手の目前に誘き出されました」
セーレーは遮られた言葉を、もう一度続けた。
そこにはソアラが、仁王立ちで待ち構えていた。
~~~
山の麓のメイン会場は、現在大騒ぎになっていた。
ここヤータ市に、魔物の大規模襲撃の予報が入ってきたのだ。しかも…本日夕刻のことだと言う。ほとんど時間は残されていない。
「予測では、風切鳥と魔操鎧だ。トリモチは全ての在庫を用意しろ!」
来賓席でノンビリとお祭りを楽しんでいたヤータ市長は、突然目が回るほど忙しくなった。
「状況は最悪だが、援軍が来るまで何とか耐えるしかない」
市長はギリっと歯ぎしりをする。
「大会は中止だ!山に何人残ってる?」
「確認します!」
スタッフが慌てて走っていった。
たまたま近くに陣取っていたおキクとフランにも緊張が走る。
「ミーコ、魔操鎧って?」
「所謂、生きる鎧のことです。魔力の核により生命を吹き込まれた存在です」
ミーコはひょいとフランの頭に飛び乗ると、ちょこんと座りこんだ。おキクはミーコに視線を向ける。
「どうやって倒すの?」
「魔力核の破壊。ただし、魔力の塊であるため魔法での破壊は困難です。硬い鎧に覆われていますが、物理攻撃での破壊を推奨します」
その時、先程のスタッフが戻ってきた。
「たった今、多数の帰還者が出たので、残りは2名です!」
「帰還者の中にアイはいません」
ミーコがコソッと報告する。
「え?」
おキクとフランが同時に山に目を向けた。
「すぐに呼び戻せ!」
市長が急いでスタッフに命令する。
「万一既に魔物が山に侵入していた場合、一緒に呼びこんでしまいますが…?」
「なら、誰か急いで知らせに行くんだ!」
「私たちが行きます!」
言うが早いか、おキクとフランは走り出していた。
「どうやら生き残ったようね。魔法士でもないのに大したものだわ。どんな手品を使ったのかしら?」
「言われてみれば、ちょっとセコイ手を使ったかもね」
セーレーを数えれば、コッチは二人組ということになるかもしれない。しかし、この不利な状況を覆すには、セーレーの援助は必要不可欠である。そこは目を瞑ることにした。
「余裕を見せていられるのも今のうちですわよ。それを次で証明して差し上げます」
ソアラはフンと鼻を鳴らすと、踵を返して去っていった。
入れ替わるように、おキクとフランがアイの元にやって来た。
「はい、差し入れ」
おキクはフランクフルト(?)をアイに渡した。
「これ、どうしたの?」
「フランの奢り。結構いけるよ」
どうやらフランとおキクは実食済のようである。
「助かるよ。山道走るの結構ハードでさ」
アイはペロリと平らげた。
「フランのお陰で元気でたよ。あとは私に任せて」
「うん。任せる」
3人は顔を見合わせると、笑顔で拳をコツンと突き合わせた。
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決勝が始まり、参加者は山の中に転送された。
相手は予選を勝ち抜いた者たちである。アイは激戦を予想し、気合いを入れ直した。
「多数の冒険者が次々と退場していきます」
「…え?」
「もう半数近くが退場させられました」
「どうなってるの?」
予想外の展開にアイは呆然とする。
「索敵魔法に長けた魔法士がいるようです。相手に気付かれることなく、一方的に倒しています」
前半組の予選がすぐに終わった理由が、アイにもやっと理解出来た。
「アイ、左方向へ移動してください。退場者の分布から判断するに、相手は右方向から迫っています」
アイは直ぐさま左方向へ走った。念のため後方の確認も忘れない。
「攻撃きます」
セーレーの突然の警告に、アイは咄嗟にヘッドスライディングのように飛び込んだ。
直後、さっきまでアイがいた場所の地面に魔法陣が浮かび上がり、そこから火柱が噴き上がる。
「アイ、謝罪します。どうやら相手の索敵能力を見誤りました」
「…え?」
セーレーの謝罪なんて初めて聞いた。
「今の攻撃で、私たち以外は全滅です。そのうえ相手の…」
「発動した魔法を躱すなんて、信じられないことをするわね」
聞き覚えのある声がセーレーの言葉を遮った。アイはうつ伏せの体勢のまま、声のした方向に顔だけ向ける。
「そのうえ相手の目前に誘き出されました」
セーレーは遮られた言葉を、もう一度続けた。
そこにはソアラが、仁王立ちで待ち構えていた。
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山の麓のメイン会場は、現在大騒ぎになっていた。
ここヤータ市に、魔物の大規模襲撃の予報が入ってきたのだ。しかも…本日夕刻のことだと言う。ほとんど時間は残されていない。
「予測では、風切鳥と魔操鎧だ。トリモチは全ての在庫を用意しろ!」
来賓席でノンビリとお祭りを楽しんでいたヤータ市長は、突然目が回るほど忙しくなった。
「状況は最悪だが、援軍が来るまで何とか耐えるしかない」
市長はギリっと歯ぎしりをする。
「大会は中止だ!山に何人残ってる?」
「確認します!」
スタッフが慌てて走っていった。
たまたま近くに陣取っていたおキクとフランにも緊張が走る。
「ミーコ、魔操鎧って?」
「所謂、生きる鎧のことです。魔力の核により生命を吹き込まれた存在です」
ミーコはひょいとフランの頭に飛び乗ると、ちょこんと座りこんだ。おキクはミーコに視線を向ける。
「どうやって倒すの?」
「魔力核の破壊。ただし、魔力の塊であるため魔法での破壊は困難です。硬い鎧に覆われていますが、物理攻撃での破壊を推奨します」
その時、先程のスタッフが戻ってきた。
「たった今、多数の帰還者が出たので、残りは2名です!」
「帰還者の中にアイはいません」
ミーコがコソッと報告する。
「え?」
おキクとフランが同時に山に目を向けた。
「すぐに呼び戻せ!」
市長が急いでスタッフに命令する。
「万一既に魔物が山に侵入していた場合、一緒に呼びこんでしまいますが…?」
「なら、誰か急いで知らせに行くんだ!」
「私たちが行きます!」
言うが早いか、おキクとフランは走り出していた。
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