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第1章

赤の姫君 6

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夕方になり自主練を切りあげたアイとおキクは、カタン出張所に戻ってきた。そこで建物の入り口前に座り込んでいるフランの姿に気付く。

「フラン!?どうしたの、こんな所で?」

アイは驚いたように、フランに駆け寄る。

「仲間探しは、上手くいかなかったのですか?」

おキクも心配そうに声をかけた。

「アイさん、おキクさん。良かった…また会えた」

フランは安心したように微笑んだ。

「そうだ、フラン。お腹すいてない?」

そのときフランのお腹が「ぐぅー」と鳴った。フランは気恥ずかしそうに顔を赤らめる。そういえば朝から何も食べていなかった。

「決まり!」

アイはフランの手を引いて歩きだした。目的地は市長官邸の食堂である。

「そういえば、何であそこが分かったの?」

アイがフランに不思議そうに尋ねた。

「エルフの目撃情報を辿ったら、割と簡単に分かりました」

良くも悪くもアイは目立っていたのだ。おキク思わず苦笑いになる。

「フランは名探偵だね」

アイは右手の親指を立てて「イイネ」と笑った。

   ~~~

3人が食事を終えた後にひと息ついていると、フランがポツリと口を開いた。

「詰所には屈強そうな冒険者が沢山いてましたよ」

フランは眉間にシワを寄せ強面を作ると「こんな顔した人」と説明を付け足す。

「でも向こうは私のことを、奇異の目で見てくるんです。もちろん何時ものことで、理由も重々承知していますが…でも今日初めて気付いたんです」

フランはアイとおキクに真剣な顔を向けた。

「私が探していたのは強い仲間ではなくて、信頼できる仲間なんだと」

フランは昼間の戦闘を思い出す。あの一戦は、確かに強い信頼関係で結ばれていたと確信している。

「もしお嫌でなければ、私をおふたりのパーティに加えてください」

「全然イヤじゃないよ!」

アイが間髪入れず、声を張り上げた。

「私も大歓迎です!」

おキクも続けて、大きく頷く。

そんなふたりの返事を聞いて、フランはホッとしたような表情になる。それから倒れ込むように、テーブルにドッと突っ伏した。

「あー、スゴく緊張しましたー」

フランの震える声を聞きながら、アイとおキクは思わず笑ってしまった。

そのときフランは思い出す。

それは詰所の帰り際、興味本位で受付に質問したときのことである。30代後半くらいで、長い茶髪を三つ編みにした縁なし眼鏡の女性であった。

「風切鳥?」

「はい」

女性の問い掛けにフランは頷いた。

「あの魔物は結局は体当たりしかしないので、軍から支給されるトリモチを使えば誰でも倒せるわよ」

「では、トリモチを使わないならどうですか?」

「…魔物襲来初期の頃は手を焼いたようですね。あの速度にカウンターを合わせるとなると、かなりの熟練剣士でもないと難しかったようです」

その答えを聞いてフランは身震いする。

そう…普通は剣士でやっとなのだ。それをアイは、確かに見たことのない武器であったが、飛び道具でやってのけたのだ。

自分たちをヒヨッコと自称している、この2人の秘めたる力に、フランは畏敬の念に近いものを感じていた。

   ~~~

アイとおキクは自分たちの方にも話があると、カタン出張所の宿泊部屋にフランを案内した。

3人揃ってアイのベッドに腰掛ける。

「フラン、私ホントはエルフじゃないの」

「え?」

アイの突然の告白にフランは目を丸くして驚いた。

「これから信じられない話をするよ」

アイの真剣な眼差しを受け、フランはゴクリと息を飲む。

「私たちは…別の世界から来た異世界人なんだ」

「…は?」

途端にフランの口が、開いたまま閉じなくなった。

フランの予想通りの反応に、アイも特別驚きはしない。とはいえ、こんな話、どーやったら信じてもらえるのだろうか…

「おキク、コレどうやったら証明出来るかな?」

「さあ?証明なんて出来るのかしら」

アイとおキクは「うーん」と思案顔になる。

「あ、違います。信じてない訳ではありません」

フランは慌てて両手を振った。

「おふたりの言葉なら、私は無条件で信じます」

純血種に出会えた感激が嘘でも、そんな事は全然関係ない。

正直…絶対あり得ないと思っていた『異世界人』に巡り逢えたのだ。

「だけど、こんな幸運…あって良いのでしょうか」

フランの目からポロポロと涙が零れた。

「フラン?」

「ちょっと、大丈夫?」

アイとおキクが慌ててフランに寄り添う。

「全然大丈夫ですよ」

フランは涙を流しながら、「アハハ」と声をたてて笑った。
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