25 / 98
第1章
赤の姫君 5
しおりを挟む
カタン市に着くと、アイたちはお礼を言って商人たちと別れた。
そしてフランが冒険者の詰所に向かうと言うので、ミーコの案内のもと一緒について行くことにする。
「フランはどんな用事で詰所に行くの?」
アイは世間話のつもりで質問した。
「そうですね…」
フランは少し思案したあと、アイの顔を覗き見る。
「あまり暗く受取らないで欲しいのですが…仇を討つために強い仲間を探してるんです」
「…ああ、そうなんだ」
アイはまたしても、しまったと後悔した。
微妙な空気になりかけたそのとき、ミーコがひょいとおキクの肩に飛び乗る。それから何やらおキクが頷くと、眼前の建物を指差した。
「着いたみたいよ」
中央に大きな扉があり、両側に小さな部屋がいくつも並んでいる。三階建のまるで中学校のような建物であった。
「少し寂しいけど…ここでお別れだね」
既に歩き出していたフランは、アイの言葉に驚いたように振り返った。
「…え?おふたりは入らないんですか?」
「私たち今日初めて魔物と戦ったようなヒヨッコだから、恐れ多くてこんな所に入れないよ」
アイが「ケラケラ」と明るく笑う。
「強い仲間が見つかることを、私たちも願っていますね」
おキクも少し寂しそうに微笑んだ。
「そう…ですか」
フランは少しの間、アイとおキクの顔を見つめていたが、やがてゆっくりと頭を下げた。
「ここまで、ありがとうございました」
フランが建物に入っていくのを見届けてから、おキクが努めて元気な笑顔を見せる。
「私たちは、自主練に戻りましょう」
「よーし、ガンガンいくぞー!」
アイもガッツポーズを作りながら、努めて元気に振る舞った。
~~~
あの日の夜。
カムカ村は魔王軍の襲撃にあった。住民が100人もいないような小さな村に、何百もの魔物が押し寄せた。
勝ち目など無かった。
たくさん殺された。
そして、生き残りが村の中央広場に集められる。
フランもその中にいた。
やがて、ひとりの青年が姿を現した。
真っ黒な長衣を身に纏い、銀色の腰帯を巻いている。深くかぶったフードの奥から、少しつり上がった鋭い目が覗いていた。
「僕はアウェイといいます。覚えてくれなくて構いません。特別恨みはありませんが、皆さんには死んでもらいます」
アウェイは腰に差している銀色の細身剣をカシャンと鳴らしながら、抑揚のない無機質な声で、そう告げた。
それからアウェイが両手を天にかざすと、その先にまるで太陽のような火球が創りだされる。
見上げた村人たちは、その大きさに自分たちは助からないと理解した。
アウェイが腕を振り下ろすのと同時に、火球が地面に激突する。凄まじい業火に、村人たちは苦しみを感じる暇もなかった。
ところが火球が直撃する寸前に、フランの足元の地面が突然崩落した。フランは避ける間もなく足元の空間に落下し、そのまま気を失った。
フランが意識を取り戻したのは、夜が明けてからのことであった。ヨロヨロと、四つん這いで穴から這い上がっていく。
地上に魔物の姿は既になく、生き残っている人間は一人もいなかった。
「生き残りがいたのかい」
突然背後から声をかけられ、フランの身体が一瞬で硬直する。
広場の横に建つ教会の屋根の上に、コチラを見下ろしながらアウェイが立っていた。フランの全身が恐怖でガタガタと震えだす。
「その強運に免じて、今回は見逃してあげるよ」
アウェイが愉しそうに微笑んだ。
「ぜ…絶対赦さない!いつか必ず…殺してやる!」
フランが必死に、声を吐き出した。
「僕を殺すなら、もっと力が必要だよ。強い仲間を見つけて、復讐しに来るといい」
アウェイの体がフワリと空に浮かび上がる。
「もっとも僕に勝ちたいなら、異世界人くらい見つけてこないと無理だろうけどね」
それだけ言い残すと、空の彼方に飛び去った。
それが…半年ほど前のことであった。
~~~
フランはカタン出張所の入り口横に、身を寄せるように座りこんでいた。いつのまにかウトウトしていたらしい。
空は赤く染まり、夕方に差し掛かっていた。
そしてフランが冒険者の詰所に向かうと言うので、ミーコの案内のもと一緒について行くことにする。
「フランはどんな用事で詰所に行くの?」
アイは世間話のつもりで質問した。
「そうですね…」
フランは少し思案したあと、アイの顔を覗き見る。
「あまり暗く受取らないで欲しいのですが…仇を討つために強い仲間を探してるんです」
「…ああ、そうなんだ」
アイはまたしても、しまったと後悔した。
微妙な空気になりかけたそのとき、ミーコがひょいとおキクの肩に飛び乗る。それから何やらおキクが頷くと、眼前の建物を指差した。
「着いたみたいよ」
中央に大きな扉があり、両側に小さな部屋がいくつも並んでいる。三階建のまるで中学校のような建物であった。
「少し寂しいけど…ここでお別れだね」
既に歩き出していたフランは、アイの言葉に驚いたように振り返った。
「…え?おふたりは入らないんですか?」
「私たち今日初めて魔物と戦ったようなヒヨッコだから、恐れ多くてこんな所に入れないよ」
アイが「ケラケラ」と明るく笑う。
「強い仲間が見つかることを、私たちも願っていますね」
おキクも少し寂しそうに微笑んだ。
「そう…ですか」
フランは少しの間、アイとおキクの顔を見つめていたが、やがてゆっくりと頭を下げた。
「ここまで、ありがとうございました」
フランが建物に入っていくのを見届けてから、おキクが努めて元気な笑顔を見せる。
「私たちは、自主練に戻りましょう」
「よーし、ガンガンいくぞー!」
アイもガッツポーズを作りながら、努めて元気に振る舞った。
~~~
あの日の夜。
カムカ村は魔王軍の襲撃にあった。住民が100人もいないような小さな村に、何百もの魔物が押し寄せた。
勝ち目など無かった。
たくさん殺された。
そして、生き残りが村の中央広場に集められる。
フランもその中にいた。
やがて、ひとりの青年が姿を現した。
真っ黒な長衣を身に纏い、銀色の腰帯を巻いている。深くかぶったフードの奥から、少しつり上がった鋭い目が覗いていた。
「僕はアウェイといいます。覚えてくれなくて構いません。特別恨みはありませんが、皆さんには死んでもらいます」
アウェイは腰に差している銀色の細身剣をカシャンと鳴らしながら、抑揚のない無機質な声で、そう告げた。
それからアウェイが両手を天にかざすと、その先にまるで太陽のような火球が創りだされる。
見上げた村人たちは、その大きさに自分たちは助からないと理解した。
アウェイが腕を振り下ろすのと同時に、火球が地面に激突する。凄まじい業火に、村人たちは苦しみを感じる暇もなかった。
ところが火球が直撃する寸前に、フランの足元の地面が突然崩落した。フランは避ける間もなく足元の空間に落下し、そのまま気を失った。
フランが意識を取り戻したのは、夜が明けてからのことであった。ヨロヨロと、四つん這いで穴から這い上がっていく。
地上に魔物の姿は既になく、生き残っている人間は一人もいなかった。
「生き残りがいたのかい」
突然背後から声をかけられ、フランの身体が一瞬で硬直する。
広場の横に建つ教会の屋根の上に、コチラを見下ろしながらアウェイが立っていた。フランの全身が恐怖でガタガタと震えだす。
「その強運に免じて、今回は見逃してあげるよ」
アウェイが愉しそうに微笑んだ。
「ぜ…絶対赦さない!いつか必ず…殺してやる!」
フランが必死に、声を吐き出した。
「僕を殺すなら、もっと力が必要だよ。強い仲間を見つけて、復讐しに来るといい」
アウェイの体がフワリと空に浮かび上がる。
「もっとも僕に勝ちたいなら、異世界人くらい見つけてこないと無理だろうけどね」
それだけ言い残すと、空の彼方に飛び去った。
それが…半年ほど前のことであった。
~~~
フランはカタン出張所の入り口横に、身を寄せるように座りこんでいた。いつのまにかウトウトしていたらしい。
空は赤く染まり、夕方に差し掛かっていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる