上 下
13 / 98
第1章

異世界へ 2

しおりを挟む
玄関を出ると、サカシタとアサノが待ってくれていた。…が、少しイライラしている気配がする。

「遅いぞ、新入り!何をやってた」

「はい!すみません」

突然の強い口調に、ふたりは直立不動で謝った。

しかし今の声が女性のモノだったことに気付き、アイとおキクは少し困惑した表情になった。

「あん?オマエ、アイか?」

ズイッと一歩前に詰め寄ったのは、黒のパンツスーツに身を包んだ格好いい女性だった。肩まで伸びた青味がかった銀髪を白いバレッタで束ねている。

「アサノさん!?」

アイは目をまん丸にして素っ頓狂な声を出した。

「何を驚いてやがる?確かに髪色は変えてるが、オマエほどじゃないだろうがっ!」

アサノはアイにデコピンした。

「あう!」

アイはおデコをさすりながら少し涙目になる。

(問題はそこじゃないよ、アサノさん)

おキクはアイに、ちょっとだけ同情した。

「アサノはコッチに来ると性格変わるからな」

サカシタがボソッと呟く。

サカシタは顔立ちに目立った変更点は見られなかったが、特筆すべきはその服装。真っ赤なジャージに白いマントを羽織っていた。凡人には思いつかないハイセンスな組み合わせである。

「なんか言ったか、サカシタ?」

アサノがギロリとサカシタを睨んだ。

「言ってません!」

サカシタはブンブンと首を横に振った。そして「俺の方が先輩なのに」と悲しそうに呟いた。

   ~~~

4人はカタン市の中心街を市長官邸に向けて歩いていた。人の姿も多くあり、賑やかな大通りである。

市長官邸に近付くにつれ主要な機関が多くなり、人の姿もどんどん増えていった。4人は人波を縫うように進んでいく。

「待ってたよ、アイ」

不意にアイの耳元で、男性の声がした。アイは咄嗟に振り返るが、たくさんの人が歩き去っていく姿があるだけで、声の主の姿は何処にもいない。

「誰?」

アイは声の主に呼びかけた。

「僕は、アウェイ」

再びアイの耳元で囁く。アイも再度振り返るが、やっぱり何処にも姿が見えない。

「赤と白の姫君を見つけるんだ…」

「待って!」

声の主が遠のく気配を感じて、アイは思わず呼び止めた。

「アイ、何してるの?」

そのときおキクが、不思議そうな顔でアイに話しかけてきた。

「そんなとこで、クルクル回って」

おキクから見たら、アイがその場でクルクルと回っているように見えたらしい。

「今誰か、話しかけてこなかった?」

「え…さあ?気付かなかったけど」

「あれ…?」

アイは納得出来ない顔で首を傾げる。

「着いたぞ、オマエら!早く来い」

アサノが大きな声で、ふたりに呼びかけた。

アイとおキクが大慌てで追いついていく。

「市長への挨拶はオマエらだけで行ってこい。私らはこの辺で待ってるからな」

「市長は優しい方だから、そんなに緊張しなくていいよ」

アサノとサカシタに見送られ、アイとおキクは並んで市長官邸に入っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...