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兄妹の架け橋
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「ミサ、ちょっとこの子たちと大事な話があるから、この空間このまま使ってもいい?」
「…それは構わないけど、もう少し狭めても大丈夫かな?」
「話しするだけだから、全然大丈夫」
ベルが右手の親指と人差し指で丸を作って「ニッ」と笑う。
「それじゃ私は、あの子を責任持って連れて帰っておくね」
ミサが未だ意識を取り戻さない中野茉理に、申し訳なさそうな顔を向けた。
「おー、よろしく頼む」
「任せて」
ミサは力強く頷くと、もう一度ベルの顔を見た。
「私、ベルがいないと還れないんだから、ちゃんと迎えに来てよ」
「はいよ、また後で」
ベルがヒラヒラと手を振る様を横目で見ながら、ミサは中野茉理を連れて一瞬で姿を消した。
「何ですか、話って?」
ルーが一番に口を開く。
「残念な話と、もっと残念な話の、どっちから聞きたい?」
「それ、普通は、良い話と悪い話っっ」
思わず新島春香がツッコミを入れる。
「いい反応だね、さすがハルカさん」
ベルが嬉しそうに頷いた。
「ま、勿体ぶった言い方したけど、大元の話としてはひとつなんだよね」
「……還るんだな」
春日翔の呟きに、ベルが驚いた顔を向けた。
「一体何の話ですかっ?」
ベルの表情に嫌な予感を感じたアリスが、春日翔に詰め寄る。
「アリスに聞いてた春香ちゃんの指輪が失われてしまったからな…そうかもと思っただけだ」
「…確かにそうです。でも、まさかっっ」
ルーの声も震えて弱々しくなる。それから、すがるような瞳でベルを見た。
「聖騎士さんの言うとおりだよ」
ベルはポリポリと頭を掻きながら「はー」と溜め息を吐いた。
「この結界が解除されたら、強制送還だね」
「そんな…っ」
力が抜けて崩れ落ちそうになるアリスの身体を、春日翔がしっかりと抱きとめた。
「あの…」
そのとき新島恵太が、何だか申し訳なさそうに右手を挙げる。
「また来る訳には、いかないのか?」
「そーよ、また来ればいいじゃない……あまり歓迎はしないけど」
新島恵太の言葉を受けて、新島春香がムスッと横を向きながら同意した。
「きちんと説明していませんでしたね」
そのときルーが、弱々しい笑顔を見せた。
「もしかして、あの指輪がないと来れないの?」
真中聡子が話の流れから、先に結論を口にする。
「そ、あの指輪がファーラスと日本を繋ぐ、架け橋の役目になってたのよ」
ベルが頭の後ろで両手の指を組みながら、少し寂しそうに答えた。
「まー、手紙の配達くらいなら、呼んでくれたら何時でもやるから」
ベルが敢えて明るく「アハハ」と笑う。
「で、どーやったらアンタを呼べる訳?」
新島春香がジト目でベルを睨む。
「アハ…ハ……そー言えばコッチに、アプリは無いんだっけ…」
ベルの表情がシューンと沈んでいった。
「他のアイテムで代用とかは出来ないのか?」
春日翔が真っ青な顔のアリスの肩を抱きながら、別の方法を模索する。
「世界を繋ぐような絆の詰まったアイテムなんて、そー簡単には見つからないよ」
ベルが肩をすくめて苦笑いした。
「勇者とファーラス、両方に縁の深い物でないと」
「……そうか」
そもそも記憶のない自分に、そんな見当がある訳がない。春日翔は押し黙ることしか出来なかった。
「待ってくださいっ!」
そのときルーが、ハッとしたように大きな声を張り上げた。
「それって物じゃないとダメなんですか?」
「…それは構わないけど、もう少し狭めても大丈夫かな?」
「話しするだけだから、全然大丈夫」
ベルが右手の親指と人差し指で丸を作って「ニッ」と笑う。
「それじゃ私は、あの子を責任持って連れて帰っておくね」
ミサが未だ意識を取り戻さない中野茉理に、申し訳なさそうな顔を向けた。
「おー、よろしく頼む」
「任せて」
ミサは力強く頷くと、もう一度ベルの顔を見た。
「私、ベルがいないと還れないんだから、ちゃんと迎えに来てよ」
「はいよ、また後で」
ベルがヒラヒラと手を振る様を横目で見ながら、ミサは中野茉理を連れて一瞬で姿を消した。
「何ですか、話って?」
ルーが一番に口を開く。
「残念な話と、もっと残念な話の、どっちから聞きたい?」
「それ、普通は、良い話と悪い話っっ」
思わず新島春香がツッコミを入れる。
「いい反応だね、さすがハルカさん」
ベルが嬉しそうに頷いた。
「ま、勿体ぶった言い方したけど、大元の話としてはひとつなんだよね」
「……還るんだな」
春日翔の呟きに、ベルが驚いた顔を向けた。
「一体何の話ですかっ?」
ベルの表情に嫌な予感を感じたアリスが、春日翔に詰め寄る。
「アリスに聞いてた春香ちゃんの指輪が失われてしまったからな…そうかもと思っただけだ」
「…確かにそうです。でも、まさかっっ」
ルーの声も震えて弱々しくなる。それから、すがるような瞳でベルを見た。
「聖騎士さんの言うとおりだよ」
ベルはポリポリと頭を掻きながら「はー」と溜め息を吐いた。
「この結界が解除されたら、強制送還だね」
「そんな…っ」
力が抜けて崩れ落ちそうになるアリスの身体を、春日翔がしっかりと抱きとめた。
「あの…」
そのとき新島恵太が、何だか申し訳なさそうに右手を挙げる。
「また来る訳には、いかないのか?」
「そーよ、また来ればいいじゃない……あまり歓迎はしないけど」
新島恵太の言葉を受けて、新島春香がムスッと横を向きながら同意した。
「きちんと説明していませんでしたね」
そのときルーが、弱々しい笑顔を見せた。
「もしかして、あの指輪がないと来れないの?」
真中聡子が話の流れから、先に結論を口にする。
「そ、あの指輪がファーラスと日本を繋ぐ、架け橋の役目になってたのよ」
ベルが頭の後ろで両手の指を組みながら、少し寂しそうに答えた。
「まー、手紙の配達くらいなら、呼んでくれたら何時でもやるから」
ベルが敢えて明るく「アハハ」と笑う。
「で、どーやったらアンタを呼べる訳?」
新島春香がジト目でベルを睨む。
「アハ…ハ……そー言えばコッチに、アプリは無いんだっけ…」
ベルの表情がシューンと沈んでいった。
「他のアイテムで代用とかは出来ないのか?」
春日翔が真っ青な顔のアリスの肩を抱きながら、別の方法を模索する。
「世界を繋ぐような絆の詰まったアイテムなんて、そー簡単には見つからないよ」
ベルが肩をすくめて苦笑いした。
「勇者とファーラス、両方に縁の深い物でないと」
「……そうか」
そもそも記憶のない自分に、そんな見当がある訳がない。春日翔は押し黙ることしか出来なかった。
「待ってくださいっ!」
そのときルーが、ハッとしたように大きな声を張り上げた。
「それって物じゃないとダメなんですか?」
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