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聖騎士覚醒

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「春日くん、一緒に帰ろーよ」

下足室から出たところで、春日翔は少女の声に呼び止められた。

顔を向けると、赤縁眼鏡をかけた茶髪ショートと少し吊り目の黒髪ロングの二人組の姿があった。

「確か、3年の…」

「あー、そういえば名前言ってなかったね」

春日翔の反応を見て、茶髪ショートが思い出したように手を叩いた。

「私は日野美咲ひのみさきよ」

「私は佐久間玲さくまれい

黒髪ロングが続いて名乗る。

「私はアリス=キーリンと申します」

二人の更に背後から、凛と透き通る声が響いた。

驚いた日野美咲と佐久間玲が咄嗟に振り返る。

そこには、銀髪ボブヘアーの毛先と水色ワンピースの裾を風にはためかせながら、腰に手を当てやや大股開きで仁王立ちする少女の姿があった。

「また、アンタ!?」

佐久間玲が忌々しそうにアリスを睨んだ。

「あなた、春日くんとどういう関係?」

日野美咲もアリスに嫌悪の表情を見せる。

「私はショウの婚約者です。分かったら二度と、ショウには近付かないでください」

二人の少女に凄まれるが、アリスには毛ほども効かない。まるで社交界ように華麗に微笑んだ。

「はあ!?」

佐久間玲と日野美咲が驚いた声をあげると、二人揃って春日翔に詰め寄った。

「春日くん、今の本当なの!?」
「婚約者だなんて、嘘だよね?」

このとき春日翔は、瞬時に脳内で計算した。

面倒そうな先輩たちから解放されるには、アリスのこの茶番に乗るのが手っ取り早そうだ。

「今まで黙っていてすみません。彼女の言ってることは本当なんです」

そう言って春日翔は、深々と頭を下げた。

「まさか……嘘に決まってる…」

二人の少女が涙目でワナワナと震えだす。

「愛するショウの言葉が信じられないのですか?」

アリスは春日翔の前に立ち塞がると、二人の少女を睨みつけた。

「嘘よウソよ…」

佐久間玲と日野美咲は、ボソボソと呪文のように繰り返した。

「う…うがあぁぁあああ」

その瞬間、二人の少女が頭を押さえて絶叫した。佐久間玲は仰け反るように天を仰ぎ、日野美咲は両膝をついてうずくまった。

「お、おい、大丈夫か?」

春日翔が焦ったように一歩踏み出すが、アリスがそれを身体全体で押し留めた。

「アリス?」

「何か…変です」

アリスは春日翔の身体ごと、少しずつ距離を取っていく。

するとそのとき二人の少女の足下に、それぞれ魔法陣が描き出された。同時にそこから勢いよく黒い影が噴き上がり、佐久間玲と日野美咲の身体を飲み込んでいく。

やがて二つの真っ黒な球体が形成され、パリパリと音を立てて砕け散った。

中から2体の人影が出現する。

羽毛に覆われた、裸体のような女性の姿。両腕は鳥の翼と化し、足先には鳥のような3本の鍵爪が生えていた。

「ハーピー…」

アリスが呻くように呟いた。

いつのまにか、世界が灰色に浸食されていた。

   ~~~

「一体何が…起きてるんだ?」

春日翔は呆然と2体のハーピーを見つめていた。余りに現実離れした展開に、完全に混乱してしまっている。

「中型クラスの魔物ですが、こんな開けた場所では余りに不利です。とりあえず校舎の中へ」

アリスは春日翔の手を取ると、校舎に向けて駆け出した。

「はいはーい、ここは通行止めだよー」

そのとき校舎の入り口の影から、黒い豹が湧き上がってきた。背中には黒いマイクロビキニの少女が、黒いレザーブーツの足を組んで横乗りの体勢で座っていた。

黒のオペラグローブをはめた両手で長い黒鎌を横手に持ち、進入禁止の意思表示をする。

「無理に通るなら、アタシが相手するよ?」

2本の黒いツノの生えるピンクのショートボブを可愛く揺らし、大きな紅い瞳で妖しく笑う。その拍子に、黒い首輪から垂れているクサリがシャランと鳴った。

「まさか…ミサ!?」

アリスは絶句した。ベルと同等の存在だと報告を受けている。普通にやって、勝てる相手ではない…

「せいかーいっ!だからここは回れ右してねー」

ミサは口元でパーを広げると、「アハハー」と愉しそうに笑った。
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