上 下
16 / 75
危険信号!

16

しおりを挟む
新島恵太が真中聡子を探して走っていると、渡り廊下の窓から外を眺めて立ち尽くしている彼女の姿を見つけた。

「真中さん」

自分を呼ぶ声に一瞬ビクッとした真中聡子は、それからゆっくり振り向いた。

「新島…くん、どうして…?」

「どうしてって、さすがにあんなの気になるよ」

新島恵太は心配そうな顔をする。

「そっか…そうだよね」

真中聡子は目を閉じると、ゆっくりと頷く。そして再び目を開いた。

「私ね、距離感近いって親によく注意されるんだ」

真中聡子は努めてニッコリ笑った。

「気がつくと、相手のパーソナルスペースを越えちゃってるみたい」

緊張でもしているのか、胸元に抱き寄せたいつものポーチを両手で弄ぶ。

「大抵の人は、大なり小なり身構えるから私もそこで気付くんだけど、新島くんはそんな素ぶりが全くなくて、私も居心地良くて油断してた。本当にごめんなさい」

そう言って真中聡子は、深々と頭を下げた。

「あ、いやー、ボクも相手は女子なのに気にしなさ過ぎた。コッチこそゴメン」

新島恵太も頭を下げる。

「に、新島くんは何も悪くないよ!私が気をつけなくちゃいけなかったんだから」

真中聡子は焦ったように、首を横に振った。

「だけど高校に入ってからはホントに注意してて、上手くいってた筈なんだけど…新島くん相手だと油断しちゃってた…なんでかな?」

真中聡子は顔を真っ赤にしながら、真っ直ぐに新島恵太を見つめた。

「なんでって…ボクには、分からないよ」

新島恵太は思わず顔を背けた。こんな可愛い表情をするなんて全然思ってなかった。心臓がバクバク大暴れしてる。

「それも、そっか」

真中聡子は「アハッ」と笑った。

「あのさ…」

新島恵太は後頭部を掻きながら、ボソッと呟く。

「真中さんがイヤじゃないなら、続き教えてほしーんだけど…」

真中聡子はハッと驚き、それから優しく微笑んだ。

「うん!勝手に中断して、ゴメンね」

   ~~~

「リストの上書きが必要だわっ!」

駅へ向かう大通りで、新島春香は心底憎らしげに声を張り上げた。

「抜かれちゃいましたかー」

ルーは、どこか楽しそうに笑う。

「なんでアンタといー、アイツといー、私の結界を易々と超えてくるのよ!」

「それはだって、ケータお兄ちゃんの好きな女子ひとですから」

新島春香はルーの発する言葉の意味が、初め全く理解出来なかった。

暫くして後…

「はあー!?アンタ何言って…はあー!?」

新島春香は顔を真っ赤にして、隣を歩く少女を怒鳴りつけた。

「あー安心してください。私とハルカさんも、ちゃんと恋人ですから!」

「ちょっとアンタ、ホントに何を言って…」

ルーの意味不明な発言に新島春香は困惑した。しかしその瞬間、周りの景色が一瞬で灰色になる。

「え、何?どーなってるの?」

「しっ!静かに!」

キョロキョロと慌てる新島春香に、ルーが短く制止をかけた。

この感じ、覚えがある。あの別れの日に女神ベルが施した術に似ている。

「どーやら私たちは隔離されたようです」

「隔離…て、アンタ何を…」

新島春香は戸惑いながらルーを見るが、その尋常ならざる雰囲気に思わず息を飲む。

「来ます!」

ルーが前方を見据えて鋭く叫ぶと、通りの先から十数体の黒い野犬のような動物の群れが現れた。

ダークウルフだ、かなり数が多い。ルーは新島春香を庇うように前に立った。

「ちょ…ちょっと」

「ハルカさん、絶対に私から離れないでください!」

ルーは振り向きもしないで、強い口調で叫んだ。それから両腕を左右に開く。

「ツインセイバー!」

ルーの声と同時に、白銀に輝く刃渡り30センチメートル程の曲刀が、彼女の両手に握られていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...