上 下
29 / 31

29 第六感

しおりを挟む
「おー、これでウチの城より低くなって、ちょっとスッキリした」

 宝来尊ほうらいみことが右手を目の上にかざしながら、消し飛んだ暗黒城をマジマジと眺める。

「き、貴様……今、何をした…?」

 その時バルザーが、わなわなと震えながら、必死に声を絞り出した。

「別に何も。ただパンチを素振りしただけ」

「そんなバカな……だが確かに、魔力は一切感じなかった…」

 宝来尊の間抜けな返答に、バルザーは震える右手で額を覆いながら顔を伏せる。

「この男、危険だ……何としても、ここで…」

「今度は、狙撃か?」

 アッケラカンとしたその声に、バルザーは思わず顔を上げて両目を見開いた。

「図星か…」

 宝来尊は薄く笑うと、痛いくらいに殺気の突き刺さる、左手方向へと顔を向ける。視線の先1キロメートル辺りには、小高い丘陵地帯に森林エリアが広がっていた。

「あの森の中だな。正確に俺の頭を狙ってる」

 視界上隅にあるカウントダウンは、既に五分からの表示に切り変わっている。

「バカな……この距離で気付くなど…」

「言っとくけど、撃つ瞬間も分かるからな。嘘だと思うならやってみな。ただし…」

 言いながら宝来尊は、ギュッと拳を握りしめた。

「今度はアンタんとこの魔王に、キッチリと報復を受けて貰う」

 そのひと言に先程の光景を思い出し、バルザーの首筋を冷たい汗が伝う。それから諦めたように、後方の部下に無言で指示を出した。

 その指示に併せて、宝来尊も殺気の緊張感から解放される。内心で、安堵の溜め息を盛大に吐いた。

「分かってくれて嬉しいよ。…て事で、綱引きの勝利報酬の話をしよう」

 そう言って宝来尊は、バルザーの肩をポンポンと叩いて嫌らしい笑みを浮かべた。

「そこのカゲノちゃんと、彼女のお母さんを貰う」

「ふ、巫山戯るなっ! 引き抜きは一人と昔から決まって…っ」

「その約定を最初に破ったのはどっちだよ? これで手打ちにするって言ってんだ。それともお互い、決着つくまで戦争するか?」

 バルザーは唇を噛み締めながら、凄い剣幕で宝来尊を睨み付ける。しかしやがて両目を閉じると、諦めたように「勝手にしろ」と呟いた。

 ~~~

 カゲノ
 職業 :影狼

 体力 :150千
 魔力 :100千
 攻撃力:300千
 敏捷性:500千

 カゲノの母親
 本人のたっての希望により、魔王城寮母に就任。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

王太子妃の仕事って何ですか?

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約を破棄するが、妾にしてやるから王太子妃としての仕事をしろと言われたのですが、王太子妃の仕事って?

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?

ヘロディア
恋愛
側室の子である主人公は、正室の子である妹に比べ、あまり愛情を受けられなかったまま、高い身分の貴族の男性に嫁がされた。 妹はプライドが高く、自分を見下してばかりだった。 そこで夫を愛することに決めた矢先、夫の浮気現場に立ち会ってしまう。そしてその相手は他ならぬ妹であった…

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

処理中です...