上 下
19 / 31

19 君の名は

しおりを挟む
 宝来尊ほうらいみことは、大きく陥没した床の中心で片膝を突いていた。外傷は全くない。しかしその衝撃の重さに立っている事も出来なかった。

「はー、今の凄かったなー」

 そのとき視界が赤く反転し、突然『warning!』と表示される。

 続いて、

『障壁負荷甚大。耐久力残量少』

「はあ⁉︎」

 表示内容に思わず大きな声が漏れ出たが、慌てて口元を右手で押さえた。

「今のに耐えるとはな、小僧」

 するとチンチクリンの姿に戻った赤鬼が、宝来尊の目の前でドサっとその場に座り込んだ。

「で、どうします? もっともサービスタイムは終わりですので、次からは俺も手を出しますが」

 宝来尊はドキドキを押し殺して、余裕の表情を必死に作る。

「はん、言ってくれる。だがもう終わりだ。どうやら儂では、足下にも及ばんようだからな」

 赤鬼は「ガハハ」と大きな笑い声をあげると、背中から大の字に倒れ込んだ。

「…そーですか、良かった」

 本当に良かった。宝来尊は「はああ」と大きく息を吐いた。

 その頃になって、宝来尊の視界が元に戻る。どうやら自動修復は備わっているようだ。しかしそれを上回る攻撃を連続で受け続けたら、いつかは限界に達してしまう。

「運が良かったな」

 宝来尊はボソリと呟いた。ここでスキルの検証が出来たのは本当に大きい。知らずに死地に放り込まれていたなら、どうなっていた事だろうか。

「ミコトさまーーっ!」

 その時シラネが背後から飛びついてきた。

「シラネ⁉︎」

「何処もお怪我はありませんか? ああ、お膝が汚れてしまわれております」

 シラネは宝来尊の全身を隈なく確認し、最後には砕けた床に自分の膝を突いてズボンの砂を払う。

「あーシラネ、もう大丈夫だから。シラネのドレスまで汚れてしまう」

「いいえミコトさま、わたくしの事はお気になさらないでください。御身の安寧が一番でございます」

 今まで以上にキラキラした瞳を向けられ、宝来尊は思わず苦笑いを浮かべた。

「おい、小僧」

 すると唐突に赤鬼が上体を起こし、白目の大きな三白眼を宝来尊にギロリと向ける。

「儂の名はホシワリ。いずれはこの拳ひとつで星を砕く漢よ」

 そうして「ガハハ」と豪快な笑い声が、演習場内に響き渡った。

 ~~~

 ホシワリ
 職業 :ムキム鬼(赤)

 体力 :9,999千
 魔力 :     0
 攻撃力:9,999千
 敏捷性:   50千

 その晩、宝来尊はホシワリを、そっと四天王に登録した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

処理中です...