上 下
9 / 31

9 引き篭もり

しおりを挟む
「あの、ところでさ」

 気を取り直して宝来尊ほうらいみことは、シラネの方に顔を向ける。

「急かすみたいで申し訳ないんだけど、時給の計算はいつから始まるの?」

「これは大変失礼致しました、ミコトさま」

 言われてハッとしたように、シラネは深々と頭を下げた。

「玉座の背もたれに、魔法陣があるのは分かりますでしょうか?」

「ああ、コレ?」

 宝来尊が身体をずらして確認すると、ちょうど後頭部の位置に円形の魔法陣が確かにある。

「はい。そこに手を当てて了承すると宣言してください」

 言われるがまま、宝来尊は右手を当てて「了承する」と口にする。

 すると魔法陣から光が溢れ、宝来尊に吸い込まれるように消えていった。

「これで契約完了です。それではミコトさま、180日間よろしくお願い致します」

 その光景を見つめていたシラネが、嬉しそうに天使の微笑みを満面に浮かべる。

「こちらこそ宜しく、シラネ」

 こんな笑顔が見れるなら、世界を征服するのも悪くない…そんな柄にもない事を、宝来尊は改めて考えていた。

 ~~~

 自分の能力アップのためにも、四天王の確保は最優先の急務である。宝来尊はシラネの案内で、地下の一室の前に立っていた。

 不思議な事に、何やらムワッとした熱気が扉の外にまで伝わってくる。

「何か…暑苦しいな」

「はい。ですのでわたくしも、あまり近付いた事がございません」

 そう言いながらもシラネは前に進み出て、扉をコンコンとノックした。

「魔王さまのお目通りである。ここを開けよ」

 しかし何も反応がない。シラネは再び、今度は強めに扉を叩いた。

「ここを開けよ!」

 それでもやはり、結果は変わらなかった。

 シラネはゆっくり振り返ると、ニッコリと最高の笑顔を浮かべる。

「ミコトさま、この扉を斬り裂いても宜しいでしょうか?」

「いやいや待て待て」

 宝来尊は、慌てて首を横に振った。

「何か事情があるかもしれないから、今日は一旦出直そう」

 絶対シラネは怒らすまいと、そう心に誓った瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タイムトリップはいかがですか?

神在琉葵(かみありるき)
ファンタジー
あなたは、どちらの道を選びますか?

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...