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第十二章 指名依頼

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「まあとりあえずは、中に入って腰を落ち着けましょう」

レト改め、レティスに促され、神木公平たち一同は豪華なソファーへと案内される。

ガラス製のテーブルを挟んで黒革の三人掛けソファーが二脚、向かい合って並んでいた。

片方の真ん中にレティスが一人で座り、対面に神木公平たち三人が座る。

様子を見ていたグレイスは、一歩引いた形で離れて立った。

それから、新たに三人分のお茶を用意したメイド服姿の女性は、そのままレティスの背後に控えるように立つ。

「いつも悪いね、カチュア」

「滅相もございません」

振り返ったレティスの笑顔に、カチュアは澄まし顔のまま頭を下げた。

~~~

「さて、いきなりですが、皆さんにはワイバーンの討伐を依頼したいのです」

「な…ななな、何を言ってるです⁉︎ いきなりワイバーンなんて…っ」

突然のレティスの発言に、チェルシーは思わず立ち上がって声を張り上げた。

「私たちだけで、出来る訳がないですっ!」

「そこは勿論、僕も付き添いますよ」

しかし、にこやかな笑みをたたえたまま、レティスが言葉を続ける。

「少し、いいかしら?」

そのとき様子を伺っていたグレイスが、スッと右手を上に挙げた。

「何でしょう?」

「レティス様が付き添う、というのは、王宮の魔法士隊が出撃する、という意味かしら?」

「いいえ」

グレイスからの探るような視線を浴びながら、それでもレティスは表情を崩さない。

「言葉通り、僕ひとりが、という意味です」

その予想通りの回答に、グレイスは右手を頬に添えて「ふぅ」と溜め息を吐いた。

「レティス様のお力を疑う訳ではありませんが、それでは余りにも…」

「やっぱりワイバーンって、何匹か居たんだな」

そんな中、神木公平が何かに気付いたように、左横に座る佐敷瞳子に声を掛ける。

その声を聞きつけたレティスが、初めて怪訝な表情を見せた。

「コーヘーさん、今のはどういう…」

「え…? だって前に俺たちが倒したのに、またワイバーンが出たんだろ?」

「…………は?」

その瞬間、まるで時間が止まったかのように、部屋の空気が凍りついた。

~~~

「えー…コホン」

漸く時間の動き出した室内で、レティスが仕切り直すように咳払いを吐いた。

「あー…と、コーヘーさん。今、ワイバーンを討伐したと聞こえましたが…?」

「ああ、うん。少し前に、リーラさんと一緒に」

「本当ですかっ、コーヘーさん⁉︎」

その瞬間、グイッと詰め寄ったチェルシーの翡翠色の瞳が、宝石のようにキラキラと輝く。

「一体、何をどーしたらそんな事が出来るのか、ホントにもー、スゴいです!」

「いやまあ、瞳子のおかげと言うか何と言うか…」

凄い凄いと連発するチェルシーに、神木公平は照れ臭そうに頭を掻いた。

「チェルシー、公平くん…困ってる」

いい加減ウンザリした佐敷瞳子が、神木公平の反対側からチェルシーを押し戻す。

そんな眼前の光景を横目に、レティスは背後のカチュアに視線を向けた。

「…いえ、私の情報網に、ワイバーンの素材が出回ったと言う形跡はありません」

カチュアからの小声の報告に頷き、レティスは再び正面に向き直る。

それから柔和な笑顔を浮かべると、

「すみません、コーヘーさん。ひとつ質問よろしいでしょうか?」

おっとりとした口調で、口を開いた。
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