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最終決戦 3
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自分を呼ぶ声に、ライセはハッと気付いたかのようにサクラを見た。
ライセにとって、一番の難関がここである。
サクラにはまだしも、炎王に悟られずにムサシやトリナに神木のことを伝える術がない。炎王に悟られた時点で、この作戦は恐らく失敗する。
「サクラ、俺にひとつ作戦がある」
ライセはサクラがうっかり口を滑らさないように、重要なことはボヤかしながら説明していく。
「あの、ムサシさま。ライセに作戦があるんだって」
「ライセが…?」
サクラの話にムサシが食い付いた。今はどんな些細なことだとしても、藁にもすがる思いである。
「聞かせてくれ」
ムサシの返答にサクラは頷いた。
「炎王に知られたらマズいから詳しくは説明出来ないけど『ムサシさまもトリナさまも指示通りにやってほしい』て」
ムサシとトリナは黙って頷いた。
「ムサシさま、炎王のテッペンに雷は落とせますか?」
「ああ。もう少し近付けばな」
「じゃあまたコッチから指示を出すので、その時は全力でお願いします」
「分かった」
ムサシは頷いた。
サクラは次に、トリナに向き直る。
「トリナさま。もし全て上手くいって炎王を倒せたとしても、次元の歪みを閉じることは出来ないかもしれないんです」
「そう、ね。そうかもしれないわね」
「だから、その時はトリナさまの魔法壁で次元の歪みを包み込んで貰いたいんです」
サクラの言葉に、トリナは少し思案した。
「それはいいのだけど…」
トリナは少し不安そうにサクラを見た。
「次元の歪みから瘴気がどんどん出てきたら、私の魔法もそのうちパンクするわよ」
「あ!」
困ったサクラはライセに助け舟を求める。ライセは少し考えたあと、トリナの疑問に答えた。
「なんかね、歪みから出てくる瘴気の濃度はある一定以上にはならないから、狭い範囲で囲んでしまえば、たぶん大丈夫なんだって」
「よくぞ、それに気付いた」
突然、炎王が口を挟んだ。
「瘴気も鬼も、この世界への侵入を制限されておる。小娘の言う通り、全て思い通り事が運べば封印することも容易かろう。だが、どうする?」
炎王は愉しそうに嗤った。
「我を一撃で消滅させでもしない限りそんなことは不可能だ。雷で我を焼き払うことなど出来はしないぞ」
「それをサクラがやるんだ!」
ライセが力強く言った。
「え?」
サクラは一瞬困惑した。
「剣の力を極限まで解放する。一撃で炎王を斬り裂くんだ!」
「イヤよ!」
サクラは叫んだ。
「私、知ってるんだよ。そんなことしたら、ライセが消滅するって」
「お前…あの時起きてたのか!」
ライセは絶句した。
しかし、これしか方法がないのだ。ライセひとりの犠牲で、ムサシもトリナも、何よりサクラのことを護れるのだ。
話の内容を察したムサシが口を挟む。
「サクラ…」
「イヤよ!ムサシさまもグルなんでしょ!話なんて聞かない」
サクラは首をブンブン横に振って、ムサシの話を遮る。
直後に首の後ろに軽い衝撃を感じたかと思うと、体の力がフッと抜けた。
「すまない、サクラ」
遠くでムサシの声が、聞こえた気がした。
***
サクラは、真っ暗な空間にひとり漂っていた。
しばらくボーッと漂っていたが、不意に意識が覚醒する。
「私、ライセと入れ替わっちゃったの?」
しかし、いつもとなんだか感じが違う。外の世界が感じ取れない。
「ここは、どこなの?」
「こんなことしてる場合じゃない!」とサクラは焦るが、どうにも出来ない。
直後に、サクラの後方から大きな波が押し寄せたかと思うと、サクラをそのまま押し流していった。
流れの中で、サクラの脳裏に様々な場面が走馬灯のように浮かんでは消えていく。
そして、ひとつの場面に辿り着いた。
ムサシとトリナと、おそらくライセであろうサクラの姿が見える。自分たちの姿を、真上から見下ろしているような不思議な感覚であった。
「ムサシ、天辺の木ノ実を狙え!」
「あれか!」
ライセの指示に従い、ムサシの落雷が木ノ実に命中する。
パンと実が弾け、神木の力を纏った雷が炎王の全身を駆け巡り縛りつける。
「この力、まさか残っておったのか!」
炎王の焦りの声が響く。
「おおおお!」
ライセの気迫とともに、剣の刀身が光輝き、天にも届くほどの巨大な光の剣と化す。
「終わりだぁーー!」
ライセは渾身の力で巨大な剣を振り下ろした。
「お、のれー!」
炎王の苦虫を噛み潰したような声が響く。
凄まじい風の乱流が巻き起こり、炎王の姿が塵も残さず消滅する。
「後は任せて!」
トリナが残った次元の歪みを魔法壁で封じ込めた。
全てが上手くいったのだ。
「やった…やったぞ!」
ムサシがサクラの元に駆けつけるが、サクラは何の反応も示さない。
握られていた剣に刀身はなく、柄のみであった。
***
いやぁぁああ!
サクラの脳裏に、女性の悲鳴が響き渡った。今まさに自分も泣き叫ぼうとしていたところに、不意をつかれた。
「何よ?」
泣きたいのはこっちだと言うのに、一体何なのだ。サクラは憤慨した。
ライセが、消滅…してしまった。私が、ライセの…魂を、喰い…尽くしたと…いうの?
女性の嘆きがサクラの脳裏を襲う。
恐ろしい程の負の感情が、サクラに流れ込む。ひたすらに嘆き続ける女性の声を振り払うようにサクラは首を振り叫んだ。
「あなた、誰よ!」
私…、…魂…、喰い……
女性の声が、まるで呪文のようにボソボソと呟き続ける。
「タマシイ、グイ?」
ふと、眼下に映る自分の姿の握る剣が、淡く輝いていることに気付く。
「あなた、あの魔剣ね!」
サクラは直感で叫ぶ。
あ、あ、ああああっ!
再び、女性が泣き叫んだ。
直後、サクラは再び背後から押し寄せた濁流に飲み込まれていった。
走馬灯が回りだす。
炎王が消滅したため、「炎」と「水」を繋ぐ次元の歪みが消滅したこと。
残された人々で国を造り、ムサシが国王に就いたこと。
柄のみの魔剣を国宝としたこと。
いずれサクラは結婚し、子を産み、その子に剣術を教えたこと。
その子のずっと未来に、ライセがいること。
そしてこの物語は、ひっそりと終わってゆく。
完
***
「って…そんなの絶対駄目ぇぇえ!」
サクラは、喉も張り裂けんばかりに叫んだ。
「こんな終わり方、絶対、絶対、ダメーーー!」
ライセにとって、一番の難関がここである。
サクラにはまだしも、炎王に悟られずにムサシやトリナに神木のことを伝える術がない。炎王に悟られた時点で、この作戦は恐らく失敗する。
「サクラ、俺にひとつ作戦がある」
ライセはサクラがうっかり口を滑らさないように、重要なことはボヤかしながら説明していく。
「あの、ムサシさま。ライセに作戦があるんだって」
「ライセが…?」
サクラの話にムサシが食い付いた。今はどんな些細なことだとしても、藁にもすがる思いである。
「聞かせてくれ」
ムサシの返答にサクラは頷いた。
「炎王に知られたらマズいから詳しくは説明出来ないけど『ムサシさまもトリナさまも指示通りにやってほしい』て」
ムサシとトリナは黙って頷いた。
「ムサシさま、炎王のテッペンに雷は落とせますか?」
「ああ。もう少し近付けばな」
「じゃあまたコッチから指示を出すので、その時は全力でお願いします」
「分かった」
ムサシは頷いた。
サクラは次に、トリナに向き直る。
「トリナさま。もし全て上手くいって炎王を倒せたとしても、次元の歪みを閉じることは出来ないかもしれないんです」
「そう、ね。そうかもしれないわね」
「だから、その時はトリナさまの魔法壁で次元の歪みを包み込んで貰いたいんです」
サクラの言葉に、トリナは少し思案した。
「それはいいのだけど…」
トリナは少し不安そうにサクラを見た。
「次元の歪みから瘴気がどんどん出てきたら、私の魔法もそのうちパンクするわよ」
「あ!」
困ったサクラはライセに助け舟を求める。ライセは少し考えたあと、トリナの疑問に答えた。
「なんかね、歪みから出てくる瘴気の濃度はある一定以上にはならないから、狭い範囲で囲んでしまえば、たぶん大丈夫なんだって」
「よくぞ、それに気付いた」
突然、炎王が口を挟んだ。
「瘴気も鬼も、この世界への侵入を制限されておる。小娘の言う通り、全て思い通り事が運べば封印することも容易かろう。だが、どうする?」
炎王は愉しそうに嗤った。
「我を一撃で消滅させでもしない限りそんなことは不可能だ。雷で我を焼き払うことなど出来はしないぞ」
「それをサクラがやるんだ!」
ライセが力強く言った。
「え?」
サクラは一瞬困惑した。
「剣の力を極限まで解放する。一撃で炎王を斬り裂くんだ!」
「イヤよ!」
サクラは叫んだ。
「私、知ってるんだよ。そんなことしたら、ライセが消滅するって」
「お前…あの時起きてたのか!」
ライセは絶句した。
しかし、これしか方法がないのだ。ライセひとりの犠牲で、ムサシもトリナも、何よりサクラのことを護れるのだ。
話の内容を察したムサシが口を挟む。
「サクラ…」
「イヤよ!ムサシさまもグルなんでしょ!話なんて聞かない」
サクラは首をブンブン横に振って、ムサシの話を遮る。
直後に首の後ろに軽い衝撃を感じたかと思うと、体の力がフッと抜けた。
「すまない、サクラ」
遠くでムサシの声が、聞こえた気がした。
***
サクラは、真っ暗な空間にひとり漂っていた。
しばらくボーッと漂っていたが、不意に意識が覚醒する。
「私、ライセと入れ替わっちゃったの?」
しかし、いつもとなんだか感じが違う。外の世界が感じ取れない。
「ここは、どこなの?」
「こんなことしてる場合じゃない!」とサクラは焦るが、どうにも出来ない。
直後に、サクラの後方から大きな波が押し寄せたかと思うと、サクラをそのまま押し流していった。
流れの中で、サクラの脳裏に様々な場面が走馬灯のように浮かんでは消えていく。
そして、ひとつの場面に辿り着いた。
ムサシとトリナと、おそらくライセであろうサクラの姿が見える。自分たちの姿を、真上から見下ろしているような不思議な感覚であった。
「ムサシ、天辺の木ノ実を狙え!」
「あれか!」
ライセの指示に従い、ムサシの落雷が木ノ実に命中する。
パンと実が弾け、神木の力を纏った雷が炎王の全身を駆け巡り縛りつける。
「この力、まさか残っておったのか!」
炎王の焦りの声が響く。
「おおおお!」
ライセの気迫とともに、剣の刀身が光輝き、天にも届くほどの巨大な光の剣と化す。
「終わりだぁーー!」
ライセは渾身の力で巨大な剣を振り下ろした。
「お、のれー!」
炎王の苦虫を噛み潰したような声が響く。
凄まじい風の乱流が巻き起こり、炎王の姿が塵も残さず消滅する。
「後は任せて!」
トリナが残った次元の歪みを魔法壁で封じ込めた。
全てが上手くいったのだ。
「やった…やったぞ!」
ムサシがサクラの元に駆けつけるが、サクラは何の反応も示さない。
握られていた剣に刀身はなく、柄のみであった。
***
いやぁぁああ!
サクラの脳裏に、女性の悲鳴が響き渡った。今まさに自分も泣き叫ぼうとしていたところに、不意をつかれた。
「何よ?」
泣きたいのはこっちだと言うのに、一体何なのだ。サクラは憤慨した。
ライセが、消滅…してしまった。私が、ライセの…魂を、喰い…尽くしたと…いうの?
女性の嘆きがサクラの脳裏を襲う。
恐ろしい程の負の感情が、サクラに流れ込む。ひたすらに嘆き続ける女性の声を振り払うようにサクラは首を振り叫んだ。
「あなた、誰よ!」
私…、…魂…、喰い……
女性の声が、まるで呪文のようにボソボソと呟き続ける。
「タマシイ、グイ?」
ふと、眼下に映る自分の姿の握る剣が、淡く輝いていることに気付く。
「あなた、あの魔剣ね!」
サクラは直感で叫ぶ。
あ、あ、ああああっ!
再び、女性が泣き叫んだ。
直後、サクラは再び背後から押し寄せた濁流に飲み込まれていった。
走馬灯が回りだす。
炎王が消滅したため、「炎」と「水」を繋ぐ次元の歪みが消滅したこと。
残された人々で国を造り、ムサシが国王に就いたこと。
柄のみの魔剣を国宝としたこと。
いずれサクラは結婚し、子を産み、その子に剣術を教えたこと。
その子のずっと未来に、ライセがいること。
そしてこの物語は、ひっそりと終わってゆく。
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