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最終決戦 1
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その日の夜。サクラが眠ったあと、ライセはサクラの体を借りて中庭に出た。
程なくして、ムサシもその場に現れる。
「よくここが分かったな」
ライセはチラリとムサシを見た。
「一瞬とはいえ、あれ程の気を当てられたら、さすがに気付くさ」
ムサシは「何か用があるんだろ?」とライセを促した。
「昼間の話だが、剣の力は有限なんだ」
ライセは腰の剣をスラリと抜いて、月夜にかざした。
「実戦だろうが訓練だろうが使えばすり減り、俺の魂の力が尽きれば消滅する」
「おいおい、本当か?」
ムサシは予想以上の内容に困惑した。
「今は大丈夫なのか?」
「普通の刀身として戦う分にはあまり影響はない。ただ、持ち主の身体能力を向上させたり、衝撃波を撃ち出したりすると確実にすり減っていく」
「だが…」とライセはムサシを見た。
「俺の魂を使い切らないといけないような場面が、恐らく来るんだろう?」
ムサシは答えない。
「もしもの時は、サクラのことを頼む」
ライセは剣を鞘に戻すと、笑ってみせた。覚悟を決めた笑顔であった。
「分かった。任せろ」
ムサシはライセの心情を察し、力強く頷いた。
***
ついに砦が完成した。
そしてムサシにより「炎の門」を意味する言葉で、「エンゲート」と名付けられた。
余談だが、サクラたちの住む国の名は「セイレーン」という。海の女神の伝説が残る場所である。
次元の歪みの発見時に自分たちの属する世界を「水」と称したのは、そこに由来する。
そして異形の鬼の存在する異世界を、相反する世界として「炎」と呼んだ。
ムサシは「炎」に滞在する一同を集め中庭で記念式典を開いていた。「こういう事は形式が大事」とトリナに強く言われたからである。
ムサシからの強い希望により、家族同席で参加している者も多く、それなりの人数に膨らんでいた。
誰にも話していないが、ムサシには「この戦いが終わったらここに街を作りたい」という思いがあったので、この機会を利用したのだ。
「エンゲート…」
ライセは呟くと、感慨深げに砦を見上げた。
それから、ひょいひょいと防壁を駆け上がると、壁の上から目の前に広がる世界を一望した。
「俺のいた国の名だ」
もはや偶然とは思えない。しかし自分ひとりで何を考えても答えが出る訳でもない。サクラやムサシに相談したところで事態が変わるとも思えない。
「ま、なるようになるか」
ライセは「フッ」と笑うと、自分を探すサクラのもとへフワッと飛び下りていった。
***
式典の翌日には、ムサシたち三人は、おそらく最後の任務になるであろう目的地に向けて出発した。
砦は大きめに設計されていたので、部屋にも余裕があった。そのため、ムサシの新たな偉業を見届けようと、こちらに残る者も少なくなかった。
サクラが式典に呼んだ祖父母や、ナナカとナナカの両親の姿もその中にあった。
ムサシたちは道中で、異形の鬼と遭遇することはなかった。
平原の果て、連なる山々の麓にある瘴気の濃い場所に近付くと、遠目からでも分かるくらい異形の鬼が密集している場所があった。
不気味な見た目の巨木の付近である。まるでそこがゴールだと教えてくれているようでもあった。
それ以降も、鬼に襲われることなく三人は巨木の付近までやって来た。陽は既に傾き、時刻は夕方に差し掛かっていた。
近くから見上げると本当に大きい。葉は一枚もついておらず、尖った枝だけが大きく広がっていた。皆さまの世界で例えるなら、東京スカイツリー程の大きさになる。
「よく来たな」
それは不意に聞こえた。
大気がビリビリと震えたかのような不気味な声である。何処から聞こえてくるのか、ハッキリとは分からない。
「誰だ」
ムサシは剣の柄に手をかけた。今までに人間の言葉を話す鬼に出会った事はない。
サクラとトリナもムサシのもとに集まり、周囲を警戒する。
「我は、お主たちが『炎』と呼ぶこの世界の王。そうだな、これからは『炎王』と名乗ろう」
炎王の言葉に、ムサシが反応する。
「俺たちのことを見ていたのか?」
「我はこの世界の王。この世界の風も土も全て、我の目となり耳となる」
「気前がいいな。何でも教えてくれるのか?」
ムサシは軽口で平静を装う。しかし炎王の言葉がもし本当なら、この世界の神とも呼べる存在だ。さすがに冷や汗ものである。
「余興である。久方ぶりの会話の機会を与えてくれたお主たちへの、せめてもの礼だ」
「では、お言葉に甘えて」
ムサシは剣から手を離した。
とにかく情報を聞き出して、相手の存在を把握しないことには、勝ち目が薄い。
「お前の目的は何だ?」
「王の使命は領土の拡大である。次元の口を開き、お主たちの世界に繋がったのは偶然であるが、我は使命を果たすのみ」
「その割には、攻めあぐねてるみたいじゃないか。どうしてもっと大群で攻めてこない?」
「我は無限を生きる存在である。数百年程度のせめぎ合いなど、我には一瞬のこと。ジワジワと嬲るのも我が愉しみのひとつ」
炎王は喉を鳴らすように、クククと嗤った。
「さあ、我を愉しませておくれ。その為にここまで招いたのだ」
密集していた異形の鬼が急に瘴気と化し、中心に向かって融合を始める。黒い影がみるみる膨れ上がり10mを超える巨大な鬼の姿が現れる。
その両側に3m程の鬼が2体、付き従うように膝をついていた。
「お前が炎王か!」
ムサシがスラリと腰の剣を抜いた。
その姿を見た炎王が、ムサシの方へ右腕を向けた。その瞬間、両脇に控えていた2体の鬼がムサシに向けて襲いかかってきた。相当速い。
ムサシは咄嗟に防御魔法で回避する。
2体の鬼は、今までムサシがいた場所に右拳を打ち付ける。ドゴンと地面が揺れ、大地が抉れた。
「ムサシさま!」
トリナが叫ぶ。同時に3人全員に防御魔法を展開する。トリナの魔法の効果により、異形の鬼はムサシの姿を見失った。
次の瞬間、片方の1体に雷撃が落ちた。
「ガッ…」
異形の鬼は黒い煙を吹きながら片膝をつく。同時にムサシにより首を跳ね飛ばされた。鬼は斬られた首の傷跡から大量の瘴気を噴き出しながら消滅した。
もう片方の異形の鬼は、闇雲に両腕を振り回してムサシを牽制する。
「無駄だ!」
ムサシは背後から飛びかかると、鬼の延髄部分に剣を突き立てた。鬼の体がビクンと痙攣する。
その瞬間、炎王の右の手のひらが配下諸共ムサシを圧し潰してきた。
「何!」
ムサシは咄嗟に魔法で回避を試みるが、間に合わない。トリナの防御魔法がミシミシと悲鳴をあげて砕け散った。
しかし、トリナの魔法が耐えてくれた僅かな時間でムサシは回避に成功する。
潰された鬼は、瘴気を噴き上げ消滅した。
「味方にも容赦なしかよ!」
ムサシは苦笑いした。瞬時にトリナの魔法壁が再展開される。
炎王は左拳をムサシ目掛けて振り下ろしたが、既にムサシはそこにはいない。大地だけが大きく抉り取られた。
ムサシは跳躍した。同時に、魔法により稲妻が刀身に帯電する。
「くらえっ!」
ムサシは両手で剣を逆手に持つと、炎王の額に深々と突き刺した。刀身に帯電していた稲妻が、瞬時に全身に駆け巡る。
「ガ…ガ…」
炎王は首を仰け反らせ、ガックリ膝をつく。大きく開いた口の中から黒い煙がモクモクと噴き出していた。
「ムサシさま、スゴイ…」
何もやる事の無かったサクラは、ムサシの活躍をただ呆然と眺めているだけであった。
程なくして、ムサシもその場に現れる。
「よくここが分かったな」
ライセはチラリとムサシを見た。
「一瞬とはいえ、あれ程の気を当てられたら、さすがに気付くさ」
ムサシは「何か用があるんだろ?」とライセを促した。
「昼間の話だが、剣の力は有限なんだ」
ライセは腰の剣をスラリと抜いて、月夜にかざした。
「実戦だろうが訓練だろうが使えばすり減り、俺の魂の力が尽きれば消滅する」
「おいおい、本当か?」
ムサシは予想以上の内容に困惑した。
「今は大丈夫なのか?」
「普通の刀身として戦う分にはあまり影響はない。ただ、持ち主の身体能力を向上させたり、衝撃波を撃ち出したりすると確実にすり減っていく」
「だが…」とライセはムサシを見た。
「俺の魂を使い切らないといけないような場面が、恐らく来るんだろう?」
ムサシは答えない。
「もしもの時は、サクラのことを頼む」
ライセは剣を鞘に戻すと、笑ってみせた。覚悟を決めた笑顔であった。
「分かった。任せろ」
ムサシはライセの心情を察し、力強く頷いた。
***
ついに砦が完成した。
そしてムサシにより「炎の門」を意味する言葉で、「エンゲート」と名付けられた。
余談だが、サクラたちの住む国の名は「セイレーン」という。海の女神の伝説が残る場所である。
次元の歪みの発見時に自分たちの属する世界を「水」と称したのは、そこに由来する。
そして異形の鬼の存在する異世界を、相反する世界として「炎」と呼んだ。
ムサシは「炎」に滞在する一同を集め中庭で記念式典を開いていた。「こういう事は形式が大事」とトリナに強く言われたからである。
ムサシからの強い希望により、家族同席で参加している者も多く、それなりの人数に膨らんでいた。
誰にも話していないが、ムサシには「この戦いが終わったらここに街を作りたい」という思いがあったので、この機会を利用したのだ。
「エンゲート…」
ライセは呟くと、感慨深げに砦を見上げた。
それから、ひょいひょいと防壁を駆け上がると、壁の上から目の前に広がる世界を一望した。
「俺のいた国の名だ」
もはや偶然とは思えない。しかし自分ひとりで何を考えても答えが出る訳でもない。サクラやムサシに相談したところで事態が変わるとも思えない。
「ま、なるようになるか」
ライセは「フッ」と笑うと、自分を探すサクラのもとへフワッと飛び下りていった。
***
式典の翌日には、ムサシたち三人は、おそらく最後の任務になるであろう目的地に向けて出発した。
砦は大きめに設計されていたので、部屋にも余裕があった。そのため、ムサシの新たな偉業を見届けようと、こちらに残る者も少なくなかった。
サクラが式典に呼んだ祖父母や、ナナカとナナカの両親の姿もその中にあった。
ムサシたちは道中で、異形の鬼と遭遇することはなかった。
平原の果て、連なる山々の麓にある瘴気の濃い場所に近付くと、遠目からでも分かるくらい異形の鬼が密集している場所があった。
不気味な見た目の巨木の付近である。まるでそこがゴールだと教えてくれているようでもあった。
それ以降も、鬼に襲われることなく三人は巨木の付近までやって来た。陽は既に傾き、時刻は夕方に差し掛かっていた。
近くから見上げると本当に大きい。葉は一枚もついておらず、尖った枝だけが大きく広がっていた。皆さまの世界で例えるなら、東京スカイツリー程の大きさになる。
「よく来たな」
それは不意に聞こえた。
大気がビリビリと震えたかのような不気味な声である。何処から聞こえてくるのか、ハッキリとは分からない。
「誰だ」
ムサシは剣の柄に手をかけた。今までに人間の言葉を話す鬼に出会った事はない。
サクラとトリナもムサシのもとに集まり、周囲を警戒する。
「我は、お主たちが『炎』と呼ぶこの世界の王。そうだな、これからは『炎王』と名乗ろう」
炎王の言葉に、ムサシが反応する。
「俺たちのことを見ていたのか?」
「我はこの世界の王。この世界の風も土も全て、我の目となり耳となる」
「気前がいいな。何でも教えてくれるのか?」
ムサシは軽口で平静を装う。しかし炎王の言葉がもし本当なら、この世界の神とも呼べる存在だ。さすがに冷や汗ものである。
「余興である。久方ぶりの会話の機会を与えてくれたお主たちへの、せめてもの礼だ」
「では、お言葉に甘えて」
ムサシは剣から手を離した。
とにかく情報を聞き出して、相手の存在を把握しないことには、勝ち目が薄い。
「お前の目的は何だ?」
「王の使命は領土の拡大である。次元の口を開き、お主たちの世界に繋がったのは偶然であるが、我は使命を果たすのみ」
「その割には、攻めあぐねてるみたいじゃないか。どうしてもっと大群で攻めてこない?」
「我は無限を生きる存在である。数百年程度のせめぎ合いなど、我には一瞬のこと。ジワジワと嬲るのも我が愉しみのひとつ」
炎王は喉を鳴らすように、クククと嗤った。
「さあ、我を愉しませておくれ。その為にここまで招いたのだ」
密集していた異形の鬼が急に瘴気と化し、中心に向かって融合を始める。黒い影がみるみる膨れ上がり10mを超える巨大な鬼の姿が現れる。
その両側に3m程の鬼が2体、付き従うように膝をついていた。
「お前が炎王か!」
ムサシがスラリと腰の剣を抜いた。
その姿を見た炎王が、ムサシの方へ右腕を向けた。その瞬間、両脇に控えていた2体の鬼がムサシに向けて襲いかかってきた。相当速い。
ムサシは咄嗟に防御魔法で回避する。
2体の鬼は、今までムサシがいた場所に右拳を打ち付ける。ドゴンと地面が揺れ、大地が抉れた。
「ムサシさま!」
トリナが叫ぶ。同時に3人全員に防御魔法を展開する。トリナの魔法の効果により、異形の鬼はムサシの姿を見失った。
次の瞬間、片方の1体に雷撃が落ちた。
「ガッ…」
異形の鬼は黒い煙を吹きながら片膝をつく。同時にムサシにより首を跳ね飛ばされた。鬼は斬られた首の傷跡から大量の瘴気を噴き出しながら消滅した。
もう片方の異形の鬼は、闇雲に両腕を振り回してムサシを牽制する。
「無駄だ!」
ムサシは背後から飛びかかると、鬼の延髄部分に剣を突き立てた。鬼の体がビクンと痙攣する。
その瞬間、炎王の右の手のひらが配下諸共ムサシを圧し潰してきた。
「何!」
ムサシは咄嗟に魔法で回避を試みるが、間に合わない。トリナの防御魔法がミシミシと悲鳴をあげて砕け散った。
しかし、トリナの魔法が耐えてくれた僅かな時間でムサシは回避に成功する。
潰された鬼は、瘴気を噴き上げ消滅した。
「味方にも容赦なしかよ!」
ムサシは苦笑いした。瞬時にトリナの魔法壁が再展開される。
炎王は左拳をムサシ目掛けて振り下ろしたが、既にムサシはそこにはいない。大地だけが大きく抉り取られた。
ムサシは跳躍した。同時に、魔法により稲妻が刀身に帯電する。
「くらえっ!」
ムサシは両手で剣を逆手に持つと、炎王の額に深々と突き刺した。刀身に帯電していた稲妻が、瞬時に全身に駆け巡る。
「ガ…ガ…」
炎王は首を仰け反らせ、ガックリ膝をつく。大きく開いた口の中から黒い煙がモクモクと噴き出していた。
「ムサシさま、スゴイ…」
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