魔剣士サクラは姫のサクラに負けたくない!

さこゼロ

文字の大きさ
上 下
6 / 23

噂の魔剣士 3

しおりを挟む
ライセは、生きていたときの記憶がハッキリとしていない。どこかアヤフヤな感じだ。

ただ、大切な人を護ることが出来なかったという強い後悔がライセのなかで大半を占める。そのため、次は必ず護るという想いがライセの原動力になっているのである。

   ***

ライセは、サクラの稽古を暫く眺めていた。残念ながら才能は感じられない。

誰の指導も受けず、ずっと独学でやっていたと聞いてはいるが、それを差し引いたとしても将来性は低い。愛読している指南書に問題があるのだろうか?

ふと、ライセに妙案が浮かぶ。

サクラが眠っている間であったとはいえ、ライセの無意識は確かにサクラを操っていた。自分にも出来るかもしれない。

「手本を見せてやるから、ちょっと体を貸してくれないか?」

「は?」と聞き返してくるサクラに、あくまでも可能性の話だが、そういうことが出来るかもしれないとライセは説明した。

サクラは少し思案した。

ライセの剣術の腕前はサクラの深層意識が充分に理解している。おそらくマスタークラスの剣技を自分の体で体験する、またと無いチャンス。そう、チャンス。…なのだが、さすがに乙女の恥じらいが邪魔をする。

「絶対ぜったい、変なことしないでよ」

サクラはジト目でライセを睨む。しかしながらそれは、承諾の意味も含んでいた。

「分かってる。絶対しない」

真剣な眼差しでライセは頷いた。

とはいえ、どうやるのかなんて全く見当がつかない。しかし自分の無意識がやっていたこと。深く考えないでやれば上手くいく気がしていた。

サクラも同じ考えだったのだろう。実際、心配さえも微塵もしていない表情をしている。

「ライセ」

優しい笑みでサクラは右手を差し出す。ライセはその手をとるように、自分の右手を伸ばした。

不思議な感覚に包まれた。

   ***

「上手くいったみたいだな」

確かにサクラの身体なのだが、ライセの思い通りに動く。イッチニ、サンシと軽く準備運動をする。特に違和感はない。これなら自分の体のように動かせそうだ。

ライセは自分の内側にサクラの気配を感じる。眠ってしまっている訳ではないようだ。おそらく、ライセを通じて外の情報も共有出来ているであろう。

さて、そろそろ本題に移ろう。あまり時間をかけすぎると、サクラが怒りだすかもしれない。

先ずは指南書を手に取るとパラパラと内容を確認する。思ったよりも悪くない。良い本だ。この先強くなるために必要な土台作りが重点的に記されている。

ふと興味をもち、表紙を確認する。監修に、ムサシという人物の名が記してあった。そういえば、サクラの部屋の本棚に、他にもムサシ監修の指南書があったことを思い出す。同じシリーズの「実践知識」と「応用知識」が、まだビニール包装された状態で置いてあった。

自分で購入した本だ。先に少しくらい内容を確認したところでバチが当たる訳などないであろうに、サクラの愚直な真面目さにライセの口元が緩んだ。

手本を見せると約束したんだ。そろそろ真面目に働こうか。ライセは木刀を構えると、スッと己の世界に入った。

   ***

サクラは奇妙な浮遊感の中にいた。

目は見えるし耳も聴こえる。しかし、声は出ないし体も動かせない。外からの情報は入ってくるのに、自分から何かを発信することは出来なかった。

ライセが木刀を構えるのが分かった。サクラは、これから起こることを一瞬たりとも見逃さないと、意識を集中する。

ライセの演武は本当に一瞬の早業であった。

自分の体がこんなに動くなんて、サクラは未だに信じられない。ライセの凄さを改めて実感させられたのである。

しかしライセの本当の凄さはそこではない。サクラに分かるはずもないが、生前のライセとサクラとでは肉体の性能に差がありすぎる。性別はもちろん、体格や筋肉の量も全く違う。それなのに、サクラの肉体のポテンシャルを即座に測り、最大限のパフォーマンスを引き出してみせたのだ。

ライセの剣士としての実力と才能は、この世界でさえも群を抜いている。

「何か掴めたか?」

不意に横から話しかけられた。振り向くとライセが腕組みして立っていた。いつのまにか元の状態に戻っていたことに気付かないほど、サクラはライセの剣技を体験した余韻に浸っていた。

「ライセが凄いてことが、よく分かったよ」

サクラは昂ぶる鼓動を落ち着かせようと、大きく深呼吸をした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...