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「捨てた?」
   美雪が訊ねる。
「ああ、在学中に内定した警察庁の採用を私は辞退している。当時、沙由里とは色々あってね」
「おじさま…人を殺したの?」
   不安そうな表情で質問するのはレイナだ。
「…ああ、私は人を1人、殺めている。蔑んでくれていい。今、私が受ける事の出来る罰はそれくらいだ」
   突如、車内のアラートが響いた。緊急速報…
"今日の日本時間PM6:20頃、イギリスのロンドン、ベルギーのアントワープ、そしてアメリカのニューヨークで大規模な重力変動と見られる災害が発生し現在、各国が被害の推定を急いでいます。繰り返します…"
「急がなくては…」
   呟く深町。
「おじさん、今のって…?」
   訊ねる美雪。レイナも不安そうな表情のままだがユッコはジッと前を見ている。
「…君達の通う学校が何故、存在するか知っているかね?」
   そう言うとバックミラー越しに3人を見る深町。レイナが応える。
「QCCの人材育成…秘匿される特許技術の補完と応用による、世界秩序の維持」
「そうだ。して、その補完とは?」
「それは…特許技術なので入社するまで詳細は極秘と伺っておりますわ。それに現職の方々とお会いした時も皆、立派な方々で…」
   深町の質問に答えあぐねるレイナ。するとユッコが俯きながら応えた。
「重力波の制御維持における、阿頼耶識と副産物である精神崩壊の処理、世界を統べる最終的なGMの後継…」
「GMの後継⁉︎」
   美雪が思わず声を上げる。
「ユッコには、ある程度話した。学校から妙な事を教え込まれる前に自分で判断して貰いたかったからだ。続けるか、否か…それを知る権利があるんだ。GM9である母親を持つユッコには」
「何それ、どういう事…」
   戸惑いの表情で深町、ユッコの顔を見て訊く美雪、口に手を当てて言葉も出ないレイナ。
「驚かずに聞いて欲しい。今回の各国における災害で、世界人口の約2/3は跡形もなく消えるだろう。重力変動が原因などでは無いし災害ですら無い…人災に近いものだ。阿頼耶識が極限とも言える形で現界した状態…かつてより人はこれを災厄天と呼ぶ」
   現時点の美雪とレイナが持つ知識では理解も、反応も出来ない…押し黙る2人の沈黙をユッコが破った。
「止めなきゃ…」
   隣でジッと前を見たまま呟くユッコ。それを見る2人。
「ユッコ…」
   呟くレイナ。
「ねえ、おじさん。ユッコが知っている事、全部、私達に教えて。だって私とレイナ、半年位前、ユッコママに会ったよ?全然、普通だった。第9新都心で起きた出来事の後、どうなったの?」
「それはもうすぐ着く現地で話した方が早いだろう」
   質問する美雪をバックミラー越しに見て深町は言った。
   周囲をパトロールする巡視艇の数が増し、空の彼方にある点状のものが、大陸の形を示し始める。空へ浮かぶ要衝都市、第9新都心だ。深町達の車を2艇が挟んで並走して来た。
「制空権はアメリカにあり圏内に侵入すれば撃墜される。報道はされないし、そもそも私が話した第9新都心の情報だって誰も知らないだろ?」
"I warn you.If you go any further, you will be shot down.Do you have a permit?(警告する。これ以上進めば、あなた達は撃墜される。許可証は持っているか?)"
   巡視艇からの、大音量の警告に深町が応じる。
「ユッコ、美雪君、レイナ君。QICの学生証を出しなさい」
   3人は携行する学生証を車窓越しに見せ深町が車のスピーカーから言った。
「The candidates I told you about before!We came here because we're qualified!(以前に話した候補生達だ。資格を有するので此処へ来た)」
「!」
   アメリカ人と思しきパイロットはハッとする様に照合確認し仲間へ無線を送ると応えた。
「Ok,go!」
   レイナが怪訝そうに訊く。
「ねえ、おじさま。何で通れるの?私達…」
   大陸が近付いて来た。やや右側には都庁より高いと思われる建造物が聳え立っており、連結する形で他のオブジェクトが、大陸の8割を覆っている。
「私、イヤよ?GMになるなんて」
   様子を伺うように、深町を見て言うレイナ。美雪も深町を見据えて言った。
「着いたら、ちゃんと全部教えてよね!」
「ああ、教えるさ…」
   酷かも知れないが許してくれ…君達の双肩に、大人達が君達へ託す他無かった世界の、未来が掛かっている。
   雨が、降り始めていた。
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