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碧の癒し

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「能力的に出来るとしても、した事はないしする気もないよ。男である以上、身体からだへの負担が大きすぎる。誰かさんみたいに体を弱くするのがオチだろうし。だから冬樹さん。あなたにもこれ以上させる訳にいかない。少なくとも、俺が生きてる間はね」

 足を進めた隆哉は抑揚のない声で言うと、二人が立っている木の前で立ち止まった。その木を見上げ、動かなくなる。

「なになに、どーいうこったよ?」

 駆け寄った彬が、無表情なその顔を覗き込む。しかし彬の声が聞こえていないかのように、隆哉は黙って木を見上げたまま何の反応も示さなかった。

 むー、と唸った彬が仕方なく、隆哉の見つめる木の枝に視線を移す。よく見るとその枝には何かを擦ったような痕があり、枝の一部が擦り剥けていた。

「なんだ、あれ」

 手をかざし身を乗り出して見上げる彬に、ゆっくりと隆哉の顔が向けられる。

「視えるの?」

「ああ、何? あの擦ったような痕」

 その答えに少しの間を置いて嘆息した隆哉は、再び視線を枝へと向けた。

「あれは、今朝発見された『首吊り』の縄の痕だよ」
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