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白い影
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楽しげに笑んで問いかける。まるで試合でも始めるように、何故か彬の心は弾んでいた。
彬が最もその力を発揮する試合。それは相手にリードされた後半戦に、メンバー交代で出る時だった。
そんな時。ベンチから立ち上がると彼は必ず、唇に親指を押しあてた。
「借りは、返す」
自分に誓うようにそっと、低く呟く。足を踏み出しながら、目線は俊介へと向かう。二人の負けず嫌いな視線は風のように絡まって、すぐに逸らされる。その口に笑みが浮かび、唇の端をチロリと舌が舐め取った。
追い込まれた状態に、少ない残り時間。闘争心と集中力を保つには、絶好条件の試合だ。
そしてそれは、今も同じ。
「今日は、大丈夫。明日はどうかな。日にちを延ばしたきゃ、大下から離れとくのが一番なんだけど」
「それじゃ意味がねぇ」
両手を軽く上げ即答した彬は、その手をパンと顔の前で合わせた。
「死んでまで、後悔したくねぇんだ。なあ、相沢。俺の一生の頼みだ。もし俺が死ぬまでにその子を説得出来なかったら――」
「その時は。……いいよ、俺が滅してあげる」
彬が最もその力を発揮する試合。それは相手にリードされた後半戦に、メンバー交代で出る時だった。
そんな時。ベンチから立ち上がると彼は必ず、唇に親指を押しあてた。
「借りは、返す」
自分に誓うようにそっと、低く呟く。足を踏み出しながら、目線は俊介へと向かう。二人の負けず嫌いな視線は風のように絡まって、すぐに逸らされる。その口に笑みが浮かび、唇の端をチロリと舌が舐め取った。
追い込まれた状態に、少ない残り時間。闘争心と集中力を保つには、絶好条件の試合だ。
そしてそれは、今も同じ。
「今日は、大丈夫。明日はどうかな。日にちを延ばしたきゃ、大下から離れとくのが一番なんだけど」
「それじゃ意味がねぇ」
両手を軽く上げ即答した彬は、その手をパンと顔の前で合わせた。
「死んでまで、後悔したくねぇんだ。なあ、相沢。俺の一生の頼みだ。もし俺が死ぬまでにその子を説得出来なかったら――」
「その時は。……いいよ、俺が滅してあげる」
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