上 下
44 / 215
緋い記憶

44

しおりを挟む
 自分でも声が掠れているのが判る。一途な想いに感動する半面、『あいつが迎えに来てくれる瞬間だけを待ってる』という言葉には、心底戦慄を覚えた。


『俺ならあいつを拒絶なんてしない』


 そう言外に言われている気がして、心に痛みを覚えずにはいられなかった。

 そんな彬を窺い見た隆哉が、目を細める。その顔は、笑っているように見えた。

「これは少し、おしゃべりが過ぎたみたいだ。俺が言いたいのは、不思議だなと思ったんだ。さっきあんたが時任を蹴り飛ばした時、甦ったから。少しの間だったけど」

「何が?」

「俺の、心」

「え?」

 訊き返す彬を見る隆哉の瞳は、相変わらず感情を映していない。黒い硝子玉のまま、淡く彬を映していた。

「俺が言ってるのは、表現としての言葉じゃない。俺は本当に、『心』を遺してきたんだから。なのに、何故なんだろう? あの日以来、こんな事なかったのに。何を言われても、目の前で何が起こっても、何も感じなかった筈なのに……。半分死んでる、俺の心は」

 言葉と共に心臓に手をあて、そっと拳を握る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

呪配

真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。 デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。 『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』 その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。 不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……? 「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!

インター・フォン

ゆずさくら
ホラー
家の外を何気なく見ているとインターフォンに誰がいて、何か細工をしているような気がした。 俺は慌てて外に出るが、誰かを見つけられなかった。気になってインターフォンを調べていくのだが、インターフォンに正体のわからない人物の映像が残り始める。

私の×××、いりませんか?

春の小径
ホラー
そこは どこにでもあるようで 簡単には 辿り着けない場所 あなたは 誰との 縁切りをお望みですか? 一章は前・中・後編でなっています 気まぐれ更新です

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

タライ落とし

マイきぃ
ホラー
※(注)あまり怖くありません。 主人公の正人は、テレビで『黄金のタライ』の落下事故を目撃する。幼馴染の零子は、この現象をタライの怨念のせいだと言う。行く先々で、タライの落下で意識不明になる人々が現れる。いったいこのタライはなんなのか……。 ホラーです。怖い表現があるかもしれません。苦手な方はお控えください。 ※この作品はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

#ザマァミロ

鯨井イルカ
ホラー
 主人公の小田マキは、SNSに「#ザマァミロ」というタグを使って、スカッとする体験談を投稿していた。  フォロワーから体験談を募集する日々の中、マキは「アザミ」というアカウントから、メッセージを受け取る。

処理中です...