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緋い記憶

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 体育の授業を思い出しながら、彬は頷いてみせた。

「あの左腿の側面にあるヤツだろ。よくあんなんで走れるよな。痛くないのか?」

 顔を顰める彬に、隆哉の虚ろな視線が向けられる。その二人の間に、微妙な『間』が流れた。

「何?」

「――…判らない? この場所」

 立ち上がり痣の部分を彬の正面に向けると、隆哉は体を捻ってその部分を右手で撫でた。

「これは、車が最初に当たった場所。時任が、強く痛みを記憶している場所だよ」

「……え?」

 ――俊介、の?

 困惑する彬の顔を眺めて、隆哉は再びブランコへと腰を下ろした。

「話は前後するんだけど。実は俺、一度死にかけてるんだ」

 キィキィと小さくブランコを揺らした隆哉は、夕陽に視線を向け、目を細めた。

「いや、一度死んでると言った方が正しいかもしれない。俺はあんたと同じ一年だけど、歳は違う。あんたよりも一つ上の十七だ。何故ダブッてるのかと言うと、去年酷い事故に遭ってね。長く入院していたから。その時一緒にいた俺の恋人は、死んでしまった」

 そこで言葉を切った隆哉は、フイッと顔を道路へと向けた。
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