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緋い記憶

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「……なんで? 納得したいんじゃないの?」

 その言葉に振り返った彬が、ジッと隆哉を見返す。やがて力を抜くようにゆっくりと息を吐き出した彬は、力無く微笑みを浮かべた。

「俺はな、あの場所はもう通らないと決めたんだ。思い出したくない。あいつは、俺の所為で死んだんだから。お前が何をしたいのか知らないが、もう関わりたくない。頼むから、そっとしといてくれよ」

 今まで誰にも見せた事のない『怯え』。

 初めて自分の弱みを見せた彬は、目の前にある男の瞳が、一瞬揺れたのを見た気がした。それが見間違いなのか、夕陽の反射の所為だったのか。判断がつかないままでその場を立ち去ろうとする。

「じゃ、な。そーゆう事だ」

「待って!」

 珍しく声を張り上げた隆哉は、慌てた様子で彬の腕を掴んだ。

「駄目だ、行くべきだ」

「ああ?」

 彬の腕は掴んだままで、言葉を続ける。

「ヘタな嘘は逆効果。それなら、本当の事を言おう。あんたが今まで何度か口にしてきた『誰』という疑問。その答えとなる相手がこの先で待っている。――いいか。これから向かう場所で待っているのは、あんたの『親友』だ」
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