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緋い記憶

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 薄っすらと眩しさを伴う陽差しの中。道路の傍らの塀に背を預けて立つ人物に、彬は足を止め大きく溜め息をついた。隣を歩いていた秀行が、驚いたように振り返る。

「……また、お前か……」

 敵意剥き出しの声に、秀行が顔を廻らせ塀に凭れる隆哉に視線を移した。訳が解らないというように、二人の顔を交互に見遣る。

 背中を塀から引き剥がした隆哉は、チラリと秀行に視線を投げてから、陽差しを背に受けて彬に向き直った。

「忠告は、聞き入れてもらえなかったんだね」

 首を傾げるようにして言う隆哉に、彬はハッと笑いを吐き捨てた。

「忠告? なんだそりゃ。俺も言った筈だぜ、お前に教える事なんか一コもねぇってな。毎日毎日学校の帰りに待ち伏せされて、とっても迷惑! 消え失せろ~って感じなんだけど」

 大袈裟に肩を竦めて、せいぜい不愉快さを表現してやる。

「毎日毎日って、まだ二日目……」

 ぼそりと小さく呟かれた隆哉の台詞に、キラリと彬の瞳が光った。

「ほぉぉー、じゃ、明日からはこんな事はないって訳だな」

 唇の端を舐め、好戦的な笑みを浮かべる。
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