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緋い記憶
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痙攣する腕を伸ばし、彬に手を差し伸べる。こうまでしても、彬の足は地面に貼り付いたように、ピクリともしてくれなかった。
そのくせ一方では冷静に、酷く動揺した運転手が救急車を呼ぶ声を聞いている。
これ以上の地獄なんてない。だって、コポコポと血を吐き出しながら自分を呼ぶ親友に、この足は、動く事すらしなかったのだから。
――どうして、動いてやれなかったんだろう。駆け寄って、その手を取ってやれなかったんだろう。
どうして、夕焼けよりも緋い視界に、顔を近付けてやれなかったんだろう。
どうして、一番不安であろうあいつの傍に、ひざまず跪いてやれなかったんだろう。
どうしてッ!
――『大丈夫だ』
そう言って、やれなかったんだろう。
親友、だったのに……!
後悔は鎖となり、もう償えない罪として彬を縛り付ける。あの日からずっと、彬の手は虚無を掴んでいる。掴むべき手を、失ったから……。
あの日から、サッカーはもうやらないと決めた。
そのくせ一方では冷静に、酷く動揺した運転手が救急車を呼ぶ声を聞いている。
これ以上の地獄なんてない。だって、コポコポと血を吐き出しながら自分を呼ぶ親友に、この足は、動く事すらしなかったのだから。
――どうして、動いてやれなかったんだろう。駆け寄って、その手を取ってやれなかったんだろう。
どうして、夕焼けよりも緋い視界に、顔を近付けてやれなかったんだろう。
どうして、一番不安であろうあいつの傍に、ひざまず跪いてやれなかったんだろう。
どうしてッ!
――『大丈夫だ』
そう言って、やれなかったんだろう。
親友、だったのに……!
後悔は鎖となり、もう償えない罪として彬を縛り付ける。あの日からずっと、彬の手は虚無を掴んでいる。掴むべき手を、失ったから……。
あの日から、サッカーはもうやらないと決めた。
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2019.2.13 オリジナルBL小説『日常』もサイトで更新しました。ほのぼのBLです。こちらの方もよろしくお願いします。https://rhapsodos-atar.jimdo.com/
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