ストレイ・ラム【完結】

Motoki

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呪いの鎧武者

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 すぐに出て来た彼は、書棚を元の位置に戻すと再びドアに凭れた。

「本を戻して、今度はその隣の棚を」

「えー! また俺一人でぇ?」

 叫んだ俺に、松岡が人差し指を振る。

「いいかい、山下君。マラソンってあるだろう?」

「ああ、鬱陶しい! その『感動シリーズ』はもういい!」

 手を振った俺は、少々乱暴に本を棚へと戻していった。

「そうか? 残念だな。後、『受験編』ってのもあったのに」

 クスクス笑う松岡を尻目に、俺は黙々と働いた。二つ目の棚をカラにした俺は、少しばかりダルくなった腕を振りながらウンザリと声を吐き出した。

「出来たぞ」

「ご苦労さん」

 ポンと肩を叩いた松岡が、先程と同じように棚をずらして中に入る。隅々まで壁を擦っていた松岡が、クルリと振り返った。

「見てみろよ、山下。此処だけ白く浮いてるだろ? 昔は此処に、写真か絵かが飾られていたんだ」

 見ると、壁に縦三十センチ、横五、六十センチ程の白い部分があった。確かに何かを掛けてあったらしく、小さな穴も開いている。

「これが、『封印』の痕跡か!」

「違うよ」

 勢い込んで訊いた俺に、松岡が素っ気なく即答した。

「なんだ、そりゃ」

「――この絵か写真の裏に仕掛けが無いとすると……」

 俺の言葉を完全に無視した松岡が、キョロキョロと周りを見回した。そして、ハッとしたように視線を足元へと落とす。

「そっか! こいつは、目印か!」

 しゃがみ込んだ松岡は、埃まみれの床に手で触れた。暫くそうしていたかと思うと、突然顔を上げて笑い出した。

 驚く俺を振り返り、彼はゆっくりと立ち上がった。右手を俺の方へと突き出す。

「来いよ、山下。見せてやれるぜ、お宝を」

「えっ?」

 動かない俺の腕を掴むと、松岡は再び壁の前に立った。

「押してみな、この部分を」

 松岡が触れた部分の壁に手を置き、グッと力を入れる。しかし当たり前の事ながら壁はビクともしなかった。只ヒンヤリとした硬い感触だけが、掌に残る。

「――なんにも、起こらないぞ」

 眉を寄せた俺に、松岡は「んー」と首を傾げた。

「おっかしいなぁ。――じゃ、これならどうだ」

 壁の前で、パチンパチンと二回指を鳴らす。

「これで、戒めは解けました。もう一度、お試し下さい」

「んな馬鹿な。こんなんで……」
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