ストレイ・ラム【完結】

Motoki

文字の大きさ
上 下
62 / 115
呪いの鎧武者

1

しおりを挟む
 それは、あの『ドッペルゲンガー』の一件から、二週間程経った梅雨の終わりの事だった。

 いつものように放課後を喫茶店『ストレイ・ラム』で過ごしていると、これもまたいつものように、友也さんの妹の穂積綾香あやかが店に入って来た。いつもと違うのは、その隣にうちの制服を着たポニーテール姿の少女が立っていた事だ。

 綾香は俺達の顔を一通り見回すと、テーブル席にいる客にチラリと視線を投げてからこちらに歩いて来た。

「今ちょっと暇かなぁ?」

 カウンターに両手をついて身を乗り出し、綾香は自分の兄の顔を下から見上げた。

「暇そうに見えるか?」

 眉間に皺を寄せた友也さんが、それでも隣に立つ少女にはやさしい笑顔を見せる。

「いらっしゃい。いつも妹がお世話になって。我儘な奴だから、迷惑をかけてるんじゃないかな?」

「いえ……、そんな――」

 大人しそうな彼女は、肩を窄めるようにしてペコリと頭を下げた。

「佐藤由美です。こんにちは」

 俺達にも目を向けた彼女は、俺の隣でダルそうに肘をつく松岡たもつを見止めて、更に肩を窄めた。仕方のない事だが、松岡は目つきが鋭い上にその物憂げな態度から、初対面の相手にはとっつき難いという印象を与えてしまう。

 勿論お客にはいつもの営業スマイルを見せるので、そんな印象を与える事はなかったのだが、綾香が連れて来たという事で、彼の中で佐藤は客として認識されなかったようだった。

「もし迷惑なら――」

 佐藤の言葉を遮った綾香が、更に身を乗り出して友也さんに囁く。

「もうっ、彼女はお客。『迷える子羊ストレイ・ラム』をご希望よ!」

 横目で松岡を睨み付けながら低く声を出した綾香に、友也さんがピクリと眉を動かした。途端にガタンと松岡が立ち上がり、佐藤にニッコリと微笑みかける。

「これは、失礼致しました。どうぞ、お掛け下さい」

 カウンター席を示した松岡に、呆気に取られた彼女がそれでも大人しく椅子に腰掛ける。その彼女に水とおしぼりを出した友也さんが、チラリと階段に目を向けた。

「悪いが保。依羅よさみを呼んで来ておくれ。『子羊ラム』がお待ちだと」

 心無しか不機嫌そうな声の友也さんに、俺と同様松岡も驚きの表情を浮かべる。俺達の視線を無視した友也さんは、黙って彼女に出す飲み物を用意していた。暫く友也さんの顔を凝視していた松岡だったが、小さく肩を竦めると二階へと階段を上がって行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷では不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

鳥の王

中野リナ
ミステリー
風の噂では、木曜の午後の講義のあと、図書室となりのブラウジングルームに「鳥の王」はあらわれるらしい。僕は「鳥の王」とその下僕の青山ソラとともに僕の祖父が残した遺言の謎を解くことになるが……短編ミステリーというか謎解きものです……

処理中です...