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黒い幻影
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「あ、ほんとだ。ねぇ依羅さん。お兄ちゃんは?」
きょとんとする綾香に、依羅さんは天井を指差した。
「頭痛がするらしくてね。二階で休んでいるよ」
ホーッと胸を撫で下ろす俺達をチラリと見遣って、依羅さんはクスリと笑みを洩らした。
「えっうそ。珍し。――ねぇ、依羅さん。二階に上がらせてもらっても、いい?」
カバンを後ろ手で持った綾香が、ニコリと笑って身を乗り出す。もう既に、窓際の幽霊にはひと欠片の興味すら持ってないらしかった。
「いいよ。でもね、部屋に入っていいかどうかは、友也の了解を得るんだよ」
「うん、判った。ありがとう!」
階段をバタバタと駆け上がった綾香に、それまで俺達を眺めていた小西が楽しげに声をあげて笑った。
「さすがの名探偵諸君も、あの娘には弱いみたいだな」
「……別に弱くねぇよ。それになんだ、その名探偵っつーナンセンスな呼び方は」
思い切り顔を顰めた松岡に、小西が「だって」と言葉を続ける。
「依頼して動いてもらったって言ってたぞ。――で? 俺の正体を見破ったのは、どっちなんですか?」
カウンターの中の依羅さんを振り返る。依羅さんが指し示した松岡を、小西は暫くの間ジッと上目遣いで見つめていた。
「礼を、言っとくべきかと思ってね」
ニッと笑った小西に、「あぁ?」と松岡が眉を寄せる。
「お前達のお陰で、目が覚めた」
「――新田、『護符』を渡したのか……?」
俺の呟きに、小西が「何それ」と首を傾げる。横から突き刺さるような松岡の鋭い睨みつけを受けて、俺は口を噤んだ。
「お前達の事は、新田から聞いたんだよ。まさか、武田に訊く訳にもいかないし」
言いながら、小西が身振りで椅子を勧める。
「あいつはあんたの事、知らないからな」
厭味混じりに応じた松岡だったが、小西の隣に素直に腰掛けたその態度からは、小西への気遣いが感じられた。
「それで? 武田のドッペルゲンガーは、もう出ていないんだろう?」
きょとんとする綾香に、依羅さんは天井を指差した。
「頭痛がするらしくてね。二階で休んでいるよ」
ホーッと胸を撫で下ろす俺達をチラリと見遣って、依羅さんはクスリと笑みを洩らした。
「えっうそ。珍し。――ねぇ、依羅さん。二階に上がらせてもらっても、いい?」
カバンを後ろ手で持った綾香が、ニコリと笑って身を乗り出す。もう既に、窓際の幽霊にはひと欠片の興味すら持ってないらしかった。
「いいよ。でもね、部屋に入っていいかどうかは、友也の了解を得るんだよ」
「うん、判った。ありがとう!」
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「……別に弱くねぇよ。それになんだ、その名探偵っつーナンセンスな呼び方は」
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「依頼して動いてもらったって言ってたぞ。――で? 俺の正体を見破ったのは、どっちなんですか?」
カウンターの中の依羅さんを振り返る。依羅さんが指し示した松岡を、小西は暫くの間ジッと上目遣いで見つめていた。
「礼を、言っとくべきかと思ってね」
ニッと笑った小西に、「あぁ?」と松岡が眉を寄せる。
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「――新田、『護符』を渡したのか……?」
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「お前達の事は、新田から聞いたんだよ。まさか、武田に訊く訳にもいかないし」
言いながら、小西が身振りで椅子を勧める。
「あいつはあんたの事、知らないからな」
厭味混じりに応じた松岡だったが、小西の隣に素直に腰掛けたその態度からは、小西への気遣いが感じられた。
「それで? 武田のドッペルゲンガーは、もう出ていないんだろう?」
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