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黒い幻影
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しおりを挟む学園の帰り道。
俺の隣を歩いていた松岡が、突然「あっ」と小さく声をあげた。慌てた様子で腕時計を覗き見る。
顔を上げてニヤリとした笑みを浮かべると、俺に向き直り両手を広げた。
「なあ、山下。今日うちのサ店に寄ってかねぇか?」
その瞳と態度から何か面白い事があると判断した俺は、「そうだな」と頷いてその内容を促した。
「実はさ」
意味ありげに声を顰めた松岡が、体を折って顔を近付けてくる。
「最近、サ店に幽霊が出るんだよ」
肩に肘を乗せ、そっと耳に囁く。
「幽霊?」
肩を引いた俺は、「嘘だろ」と遠慮なく怪訝な顔を松岡に向けた。
「いや、マジ。俺も見た事ないんだけどさ、ここ何日か連続で現れてるらしいんだ」
「……誰の情報?」
眉間に皺を寄せて訊く俺に、ボソリと呟く。
「うちのオーナー二人」
「えっ? 依羅さんまで?」
嘘、と驚きの声をあげた俺の顔を、楽しげに松岡が覗き込んでくる。
「な? 興味わいてきただろ?」
ニヤリと唇の片端を上げる。
「なんでも、毎日四時四十四分に現れて、キッチリ五時までの十六分間、窓際の席に座るらしいんだ。その幽霊」
「って事は、今日も来る――」
言いかけの俺の言葉を遮るように、真後ろから甲高い声があがる。
「なんですってぇ! 幽霊?」
一瞬視線を交わし合った俺達は、ゆっくりと後ろを振り返った。
案の定其処には、穂積綾香が両手に拳を握り、興奮した様子で立っていた。
「げっ……」
隣で頬を引きつらせる松岡などお構いなしで、綾香は自分の腕時計を確認し、「よっしゃ」と拳を揺らした。
「まだ、充分間に合うわ! 私初めてよ、幽霊見るなんてぇ!」
キャーと興奮気味の声をあげる。
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