ストレイ・ラム【完結】

Motoki

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黒い幻影

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「ま、兎に角。あの話を聞いた時点で、偽物である可能性が圧倒的に高いと俺は判断した訳だ。『自転車』や『反対側のホーム』という点から、目撃者の手に触れられないように、すぐに逃げ出せるように、という意図が感じられるし、徹底して『誰もが後ろ姿しか見ていない』って点からも、本物ではないから顔を見られる訳にいかなかったんじゃないかって、思えるだろう?」

「まあな」

「それと――あの話で新田がサッカー部に犯人がいると疑っているのは、一目瞭然だった。『いろんな奴がドッペルゲンガーを見てる』とあいつは言っていたが、新田があの時言った目撃者の中で、普通の生徒は商店街脇の道路で見たっていう一年だけなんだぜ。あいつはなんて言ってたかなぁ。掻い摘んで言うとこんな感じだ。

『  からはじまりました』『目撃者は色々です。 駅のプラットホームで見たってのは、 サッカー部員でした』『三年でも います。サッカー部は人気のある部ですから』――こんなふうに、あいつは無意識に強調する事で、サッカー部員を自分が怪しく思っている事をバラしちまってる。その他の情報は、『いろんな奴が見てるが誰が見たのかははっきり判らない』なんて曖昧なモノだからな。

 どちらにしても『確実な情報』内で『サッカー部員に何度も見られている』という点から、ドッペルゲンガーが行動を起こすのはサッカー部の練習のない時間帯、犯人も標的もサッカー部員である確率が高いという事。そして『寮』に出たという点からは、自宅からの通学者ではなく寮生活をしている者という事が考えられるって訳だ。予想してた通り、玄関には管理人――つまりあの寮で言うならおばちゃんが陣取ってるからな。そうそう簡単には寮生以外は入れない。後はさっき言った一番の注目すべき点。『何故、武田しか持っていない筈のユニフォームを、ドッペルゲンガーが着られたのか』という謎だが、これもまた、少し見方を変えれば、えらく簡単なんだな」

 肩を縮めて笑った松岡は、少し冷めてしまったコーヒーカップを両手で挟み込んだ。
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