ストレイ・ラム【完結】

Motoki

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黒い幻影

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 それはなんの変哲もない只の黄色い封筒だったが、さっき友也さんが施した蝋には『Stray Lamb』の刻印が印されていた。

「え……」

 戸惑うように声を詰まらせた新田が、その封筒を俺から受け取り、松岡に目を向けた。

「これが、護符?」

「そう。大丈夫と思うが、もしまたドッペルゲンガーが出現したら、この封筒を渡せばいい。――小西先輩に」

「小西先輩?」

 驚きの声をあげたのは新田ではなく俺だった。暫くの間ジッとその黄色い封筒を見つめていた新田は、納得したように小さく何度も頷いた。

「判った。昭弘の友達である僕が渡す事で、効果を発揮するんだね」

「そーゆうコト」

 悪戯っぽく笑った新田は、封筒を透かし見るようにして掲げた。

「出現しなくても、渡してやりたい気もするな」

 その言葉に、松岡が苦笑する。

「それはあんたに任せるけど、出来れば止めといてやってほしいな。昨日も言った通り、もう二度と現れる事はないと思うからさ」

 カウンターの端に両手をついて体を反らした松岡は、「頼むよ」と上目遣いに新田を見つめた。

「……君がそう言うなら、止めておくよ」

 残念だけどと笑った新田が、肩を竦めて封筒をポケットへと収めた。コーヒーを口に運び、残りを一気に飲み干す。

「じゃあ、僕はこれで。――報酬の方は、どうさせてもらったらいいですか?」

「報酬?」

 驚きの声をあげた松岡が、依羅さんに目を向けた。それに軽く眉を上げた依羅さんは、どーでもいい事のように片手を振ってみせた。

「保。お前に任せる」

 欠伸混じりに言って、顔を背ける。「んー」と唸った松岡が、チラリと一瞬俺を見てから、新田に視線を戻した。

「お前には『借り』があるからな。報酬はいらない」

「借り? ……ないよ、そんなの」

 新田が不思議そうな声を出す。それにフンと鼻を鳴らした松岡が、頬杖をついて無愛想に顔を顰めた。

「俺じゃねぇよ。山下の分だ」

 彼の台詞に、「あっ」と小さく声をあげる。新田が怪訝そうに俺を見つめ、微かに瞼を痙攣させた。

「少なくとも、傘一コ分はある筈だぜ?」

 松岡の言葉に、新田が小さくクスリと笑う。カウンターに両掌をついた彼は、ゆっくりと立ち上がった。

「ないよ、そんなの。――でも」

 小学生の頃の勝気な瞳そのままで、新田が俺を見下ろした。
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