44 / 115
黒い幻影
43
しおりを挟む
その声に顔を上げた松岡は、椅子から立ち上がりドアを振り返った。カランと控えめな音がして、ドアが開く。入って来た依羅さんは俺達を眺め、薄く微笑んだ。
「おはよう。丁度いいタイミングで来たようだ。私の分も、ちゃんと含まれているんだろうね? 友也」
コーヒーを注ぐ友也さんに、首を傾げるようにして訊く。
「勿論だ」
その答えに満足したように頷いて、依羅さんは松岡の隣に腰を下ろした。
「眠そうだね、保。私と一緒だ」
指で松岡にも座るよう示した依羅さんが、緩慢な動作で前髪をかき上げる。
「頼むから二人共。その顔でお客の前に立つ事だけは、止めてくれ」
俺達四人の前にコーヒーを置いた友也さんが、腕を組んで依羅さんと松岡を見下ろした。
それにククッと笑った依羅さんが、「了解」と片手を上げる。
「それで? 保。昨日の成果を聞かせてもらおうか」
味わうようにコーヒーを飲んでいた依羅さんは、不意に松岡に顔を向けた。それに頷いた松岡が、試合の様子やドッペルゲンガーが出現した事など、昨日あった事を何一つ洩らす事なく、依羅さんに話して聞かせた。その話し振りは的確で、無駄がなく余分な事も含まれていなかった。
意外な松岡の一面に驚きながらも、俺もその話にジッと聞き入る。しかし昨日同様、俺には事件の真相はさっぱりと掴めなかった。
だがさすがに依羅さんは違うようで、無言で松岡の話を聞いていたが、最後に一言。「解った」とだけ答えた。
「それで、これ」
ズボンのポケットから松岡が小振りの黄色い封筒を取り出し、それを依羅さんに渡した。封筒から便箋を取り出して、それにザッと目を通した依羅さんがコクリと頷く。
「そうだな、これでいいだろう。――友也」
人差し指と中指で挟んだ手紙を友也さんに渡して、肘をついた依羅さんは両手の指を組みその上に顎を乗せた。窺うように、上目遣いで友也さんを見上げる。
依羅さんと違って丁寧にそれを読んだ友也さんは、引き出しから赤い蝋を取り出した。手紙を戻した封筒に封をすると、その中心に蝋を垂らし、中指に嵌めた指輪を押し付けた。
「上出来だ」
ポンと松岡の頭を叩いて、友也さんは封筒を彼に渡した。「どうも」というように友也さんに頭を下げると、今度は松岡がその封筒を俺へと差し出した。新田に渡すよう、顎で示す。
「これが、昨日約束した護符だ」
「おはよう。丁度いいタイミングで来たようだ。私の分も、ちゃんと含まれているんだろうね? 友也」
コーヒーを注ぐ友也さんに、首を傾げるようにして訊く。
「勿論だ」
その答えに満足したように頷いて、依羅さんは松岡の隣に腰を下ろした。
「眠そうだね、保。私と一緒だ」
指で松岡にも座るよう示した依羅さんが、緩慢な動作で前髪をかき上げる。
「頼むから二人共。その顔でお客の前に立つ事だけは、止めてくれ」
俺達四人の前にコーヒーを置いた友也さんが、腕を組んで依羅さんと松岡を見下ろした。
それにククッと笑った依羅さんが、「了解」と片手を上げる。
「それで? 保。昨日の成果を聞かせてもらおうか」
味わうようにコーヒーを飲んでいた依羅さんは、不意に松岡に顔を向けた。それに頷いた松岡が、試合の様子やドッペルゲンガーが出現した事など、昨日あった事を何一つ洩らす事なく、依羅さんに話して聞かせた。その話し振りは的確で、無駄がなく余分な事も含まれていなかった。
意外な松岡の一面に驚きながらも、俺もその話にジッと聞き入る。しかし昨日同様、俺には事件の真相はさっぱりと掴めなかった。
だがさすがに依羅さんは違うようで、無言で松岡の話を聞いていたが、最後に一言。「解った」とだけ答えた。
「それで、これ」
ズボンのポケットから松岡が小振りの黄色い封筒を取り出し、それを依羅さんに渡した。封筒から便箋を取り出して、それにザッと目を通した依羅さんがコクリと頷く。
「そうだな、これでいいだろう。――友也」
人差し指と中指で挟んだ手紙を友也さんに渡して、肘をついた依羅さんは両手の指を組みその上に顎を乗せた。窺うように、上目遣いで友也さんを見上げる。
依羅さんと違って丁寧にそれを読んだ友也さんは、引き出しから赤い蝋を取り出した。手紙を戻した封筒に封をすると、その中心に蝋を垂らし、中指に嵌めた指輪を押し付けた。
「上出来だ」
ポンと松岡の頭を叩いて、友也さんは封筒を彼に渡した。「どうも」というように友也さんに頭を下げると、今度は松岡がその封筒を俺へと差し出した。新田に渡すよう、顎で示す。
「これが、昨日約束した護符だ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷では不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ビジョンゲーム
戸笠耕一
ミステリー
高校2年生の香西沙良は両親を死に追いやった真犯人JBの正体を掴むため、立てこもり事件を引き起こす。沙良は半年前に父義行と母雪絵をデパートからの帰り道で突っ込んできたトラックに巻き込まれて失っていた。沙良も背中に大きな火傷を負い復讐を決意した。見えない敵JBの正体を掴むため大切な友人を巻き込みながら、犠牲や後悔を背負いながら少女は備わっていた先を見通す力「ビジョン」を武器にJBに迫る。記憶と現実が織り交ざる頭脳ミステリーの行方は! SSシリーズ第一弾!
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
消された過去と消えた宝石
志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。
刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。
後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。
宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。
しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。
しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。
最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。
消えた宝石はどこに?
手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。
他サイトにも掲載しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACの作品を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる