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黒い幻影
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二人の部屋で他愛もない話をして過ごした俺達は、そろそろ夕飯の時間だというので、帰る為に部屋を出た。
「どう? どうにかなりそう?」
階段を下りながら心配そうに訊いてくる新田に、松岡は自信ありげに頷いてみせた。
「任せとけ。明日、喫茶店に来いよ。武田は練習あんだろ? 新田、お前一人で来い。ドッペルゲンガーが出なくなる護符を渡してやるよ」
「護符? そんなの役に立つの?」
「ああ! 立つ立つ! 二度と出ねぇようになる筈だぜ」
ククッと意味ありげに笑った松岡は、「ああ、そうだ」と思い出したように武田を見た。
「どっかで見た事あると思ったら、あの小西って先輩。亨さんの弟だろ?」
「亨さん?」
眉を寄せる新田の隣で、武田が驚いたように目を見開いた。
「知ってるの?」
「ああ」
「誰?」
「亨さんっていうのは、去年――」
靴箱の前で、説明しようとこちらを見た武田の動きが止まった。その顔が、驚愕に見る見る蒼ざめていく。
「え?」
武田の目線の先を追って振り返った俺達は、あまりの事に言葉を失った。
遥か先の廊下の隅。
其処には、すぐ横にいる筈の武田がこちらに背を向け、俯き加減で立っていた。オレンジ色の夕焼けを正面に受け、その黒い影が長く俺達の方へと伸びている。
逆光ではあったが、背中の番号ははっきりと読み取れた。それはまさしく、すぐ傍にいる武田が着ているユニフォームに間違いなかった。
「うそ……」
ふらついた足で後退る武田を顧みて、松岡が苦々しげにチッと舌打ちした。
「馬鹿か! あいつは!」
そう言い捨てるが早いか、勢いよく走り出す。それに続いた俺の後ろで、武田の名を呼ぶ新田の心配そうな声が聞こえた。
俺達から逃れるようにすぐ横にある階段を駆け上がると、ドッペルゲンガーは姿を消した。
「あの野郎! もう容赦しねぇ!」
足を緩める事なく追いかける松岡が、ギリッと歯を食いしばり、唸るような叫び声をあげた。
「どう? どうにかなりそう?」
階段を下りながら心配そうに訊いてくる新田に、松岡は自信ありげに頷いてみせた。
「任せとけ。明日、喫茶店に来いよ。武田は練習あんだろ? 新田、お前一人で来い。ドッペルゲンガーが出なくなる護符を渡してやるよ」
「護符? そんなの役に立つの?」
「ああ! 立つ立つ! 二度と出ねぇようになる筈だぜ」
ククッと意味ありげに笑った松岡は、「ああ、そうだ」と思い出したように武田を見た。
「どっかで見た事あると思ったら、あの小西って先輩。亨さんの弟だろ?」
「亨さん?」
眉を寄せる新田の隣で、武田が驚いたように目を見開いた。
「知ってるの?」
「ああ」
「誰?」
「亨さんっていうのは、去年――」
靴箱の前で、説明しようとこちらを見た武田の動きが止まった。その顔が、驚愕に見る見る蒼ざめていく。
「え?」
武田の目線の先を追って振り返った俺達は、あまりの事に言葉を失った。
遥か先の廊下の隅。
其処には、すぐ横にいる筈の武田がこちらに背を向け、俯き加減で立っていた。オレンジ色の夕焼けを正面に受け、その黒い影が長く俺達の方へと伸びている。
逆光ではあったが、背中の番号ははっきりと読み取れた。それはまさしく、すぐ傍にいる武田が着ているユニフォームに間違いなかった。
「うそ……」
ふらついた足で後退る武田を顧みて、松岡が苦々しげにチッと舌打ちした。
「馬鹿か! あいつは!」
そう言い捨てるが早いか、勢いよく走り出す。それに続いた俺の後ろで、武田の名を呼ぶ新田の心配そうな声が聞こえた。
俺達から逃れるようにすぐ横にある階段を駆け上がると、ドッペルゲンガーは姿を消した。
「あの野郎! もう容赦しねぇ!」
足を緩める事なく追いかける松岡が、ギリッと歯を食いしばり、唸るような叫び声をあげた。
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