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黒い幻影
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俺達は確か、この武田にとって一番いい結果を出す為に此処に来た筈だ。それなのに、会っていきなり本人を脅えさせるような事を言うなんて……。
何を言い出すんだと伸ばしかけた俺の腕に、新田の手が触れた。目を向けると小さく首を振り、俺に頷いてみせる。
――いいんだ、これで。
声を出さない彼の唇が、そう動く。
「つまり、自分の影に脅えるような精神では、ドッペルゲンガーに取って替わられちまうって事さ。幻影なんかに、ナメられんじゃねぇぜ」
相手の反応を窺うようにジッと上目遣いで見つめていた松岡は、ニヤリと笑って軽く頭を下げた。
「今更だが、俺は松岡保。そしてこっちが山下一樹。――何にせよ、俺が来たからには大船に乗ったつもりで安心してていいぜ。ドッペルが出ないようにするくらい、どうって事ない作業さ」
自信満々の松岡の台詞に、武田は初めて屈託のない笑顔を見せた。
「ハハ。スゲー頼もしい助っ人ってヤツ? 俺は武田昭弘。よろしく頼むよ」
「昭弘。彼等が今から、ドッペルゲンガーが出なくなるよう手筈を整えてくれる。俺達は、邪魔だけはしないよう気をつけるべきだよ」
忠実に松岡の指示を守る新田が、武田に向かって言った。それに頷いた武田が、「それじゃ、まず何をすればいい?」と松岡に顔を向ける。
「取り敢えず、一昨日先輩達がドッペルを見たっていう、窓を見せてくれよ」
「お安い御用! ……だけどさ。今更その場所を見て何かの役に立つの?」
「ああ。一歩一歩、ドッペルに近付いていける筈だぜ」
「…………」
絶句する二人の代わりに、俺は二人の気持ちを代弁してみせた。
「近付くんじゃなくて、遠ざけなきゃなんないんだぜ」
それにクスリと笑った松岡が、「判ってる」と右手を振る。
「しかし遠ざける為には、出来るだけ近付いて、思いっきり突き飛ばしてやるのが一番の方法だと思わないか?」
何を言い出すんだと伸ばしかけた俺の腕に、新田の手が触れた。目を向けると小さく首を振り、俺に頷いてみせる。
――いいんだ、これで。
声を出さない彼の唇が、そう動く。
「つまり、自分の影に脅えるような精神では、ドッペルゲンガーに取って替わられちまうって事さ。幻影なんかに、ナメられんじゃねぇぜ」
相手の反応を窺うようにジッと上目遣いで見つめていた松岡は、ニヤリと笑って軽く頭を下げた。
「今更だが、俺は松岡保。そしてこっちが山下一樹。――何にせよ、俺が来たからには大船に乗ったつもりで安心してていいぜ。ドッペルが出ないようにするくらい、どうって事ない作業さ」
自信満々の松岡の台詞に、武田は初めて屈託のない笑顔を見せた。
「ハハ。スゲー頼もしい助っ人ってヤツ? 俺は武田昭弘。よろしく頼むよ」
「昭弘。彼等が今から、ドッペルゲンガーが出なくなるよう手筈を整えてくれる。俺達は、邪魔だけはしないよう気をつけるべきだよ」
忠実に松岡の指示を守る新田が、武田に向かって言った。それに頷いた武田が、「それじゃ、まず何をすればいい?」と松岡に顔を向ける。
「取り敢えず、一昨日先輩達がドッペルを見たっていう、窓を見せてくれよ」
「お安い御用! ……だけどさ。今更その場所を見て何かの役に立つの?」
「ああ。一歩一歩、ドッペルに近付いていける筈だぜ」
「…………」
絶句する二人の代わりに、俺は二人の気持ちを代弁してみせた。
「近付くんじゃなくて、遠ざけなきゃなんないんだぜ」
それにクスリと笑った松岡が、「判ってる」と右手を振る。
「しかし遠ざける為には、出来るだけ近付いて、思いっきり突き飛ばしてやるのが一番の方法だと思わないか?」
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