ストレイ・ラム【完結】

Motoki

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黒い幻影

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 俺を指差し言った松岡は、不機嫌に鼻を鳴らした。言い返そうとした俺の台詞を手を上げて止めて、駆け寄ってきた新田へとニヤリとした笑みを浮かべる。

「どんな感じだ? 友達の様子は?」

「それが……あんまりよくないみたいなんだ。昨日もよく眠れなかったみたいだし」

 溜め息混じりで答えた新田が、グラウンドを走り回る選手の一人を指差した。それを細めた目でジッと見つめた松岡が、眉間に皺を寄せる。

「確かに、あまり調子はよくないようだな」

 松岡の言葉に目をグラウンドへと向けると、丁度その友達がゴールへとボールを蹴ったところだった。しかしそれは、素人目に見てもキレがあるとは言い難い、平凡なボールに見えた。

「案外と小心だな、お前の友達は。確か、武田っつったか」

 目はグラウンドに向けたまま、松岡が歩き出す。

「いいか、二人共。俺が今日する全ての事に、邪魔なんかすんじゃねぇぞ。もし、足を引っ張るような事したら、即座に蹴り倒すからな。特に新田、武田って奴にもよぉく言っとけ。俺達は、あいつの為にこうして来てるんだからな」

 鋭い視線を新田に向けた松岡の肩を、俺は軽く押した。

「それはいいけど。新田は子羊ラム――つまりお客なんじゃないの」

 小さく囁いた俺の言葉に「ああ、そうだった」とポンと手を打った松岡が、新田にお辞儀をした。

「失礼致しました。初めての仕事ですので、少々気負い過ぎていたようです」

 あの喫茶店での営業スマイルを浮かべ、再び歩き出す。そして、試合に出ている選手以外の部員が集まっているベンチの所で足を止めた。

「武田のドッペルを見たってのは、どの人?」

 新田の耳へと囁いた松岡に、新田がそっと三人の部員を指差した。

「あれが三年の小西先輩。そしてあれが、駅で見たっていう二年の井上先輩と松田先輩」
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