ストレイ・ラム【完結】

Motoki

文字の大きさ
上 下
25 / 115
黒い幻影

24

しおりを挟む
 二階から下りて来た友也さんを横目で見た依羅さんは、友也さんから小さな紙切れを受け取ると、それを大事そうにシャツの胸ポケットへと入れた。

「だからまぁ、此処は警察でも探偵事務所でもない訳だ。君の隣には友人も座っている。幸いな事に、他にお客もいない。この状況の喫茶店でお客に緊張されては、私達プロとしては少々落ち込んでしまうな」

 首を傾げ薄く微笑んだ依羅さんに、新田が微笑み返した。さっきよりは、幾分落ち着いた感じで話し出す。

「あの、相談というのは――」

 それでもやはり話し難いのか、カウンターに両手を組んだ新田は言葉を失い、唐突にこちらを向いた。

「山下、きみ、ドッペルゲンガーって、信じる?」

 身を乗り出す新田に、目を見開いた俺はぎこちなく首を傾げてみせた。

 俺にとって『ドッペルゲンガー』などというのは、信じる・信じないなどのレベルではなかった。只知識として知っている、程度の代物。

 しかしどちらかを選べというのなら、やはり答えは『信じない』になると思う。

 俺の反応に明らかに落胆した様子の新田は、今度は依羅さんに顔を向けた。それを小さく頷く事でかわした依羅さんは、身振りで話の先を促した。

「僕の友達――寮でのルームメイトの事なんです。そいつ武田昭弘って言って、サッカー部員で俺と同じ一年なんですけど、すごくサッカーの才能ある奴で、いきなりレギュラーとかに抜擢されたんです。勿論本人も大喜びで、明日からは地区予選も始まります。

 事の起こりは、二週間くらい前。サッカー部三年の小西って先輩の一言から始まりました。『昨日映画館で会ったのに、どーして無視するんだよ』って、そんな感じの事言われたみたいなんです。でもその日は一日中僕と一緒に過ごしてたんで、一歩も外に出ていないのは僕が知っています。

『俺、映画館になんか、行ってませんよ』って言っても、『いや、確かにあれはお前だった』って先輩の方も譲らなくて、その内誰かが何気なく言ったんです。『お前のドッペルゲンガーじゃないか』って。勿論その場は『そんなバカな』って笑い話になったそうなんですけど。でもそれ以来、絶対いる筈のない場所で『確かに武田を見た』って生徒が何人か現れて。最初は武田も全然気にしてなかったんですけど、いろんな人に言われるようになって。その内――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷では不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

物言わぬ家

itti(イッチ)
ミステリー
27年目にして、自分の出自と母の家系に纏わる謎が解けた奥村祐二。あれから2年。懐かしい従妹との再会が新たなミステリーを呼び起こすとは思わなかった。従妹の美乃利の先輩が、東京で行方不明になった。先輩を探す為上京した美乃利を手伝ううちに、不可解な事件にたどり着く。 そして、それはまたもや悲しい過去に纏わる事件に繋がっていく。 「✖✖✖Sケープゴート」の奥村祐二と先輩の水野が謎を解いていく物語です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...