ストレイ・ラム【完結】

Motoki

文字の大きさ
上 下
19 / 115
黒い幻影

18

しおりを挟む
「ああ、よかった。その歳でもう小学生の頃の記憶が欠乏してるのかと思ったよ。――越したのは東京なんだけどね、高校はこっちなんだ。今は、学校の寮に住んでる。山下こそ、どうしてこんな所に?」

 どうやら、厭味な性格は変わってないらしい。

「俺もこっちに越して来たんだよ」

 俺の隣でつまんなそうにしている松岡を肘で突付いて、耳元にそっと囁く。

「例の、弁護士の息子だ」

「えぇぇぇぇ、こいつがぁ?」

 松岡の反応に、「あのなぁ」と頬を引きつらせる。

 ――あからさま過ぎだって。

 まぁいいか、と心の中で嘆息した俺の気持ちも知らず、驚いた様子で一歩退いた松岡が今度は興味深げに相手を見つめた。

 いきなりこいつ呼ばわりされた相手は、それでもニッコリと笑顔を浮かべ真っ直ぐに松岡の視線を受け止めている。

「どうも、新田にった博之ひろゆきです」

「ああ。松岡保だ」

 愛想のない松岡に、少し気まずい雰囲気が流れる。眉を寄せてジッと新田の顔を見つめていた彼は、相手の反応を窺うようにゆっくりと声を発した。

「違ってたら、悪いけど。お前、なんか悩み事あんじゃねぇの?」

「え……っ」

 驚く新田に、軽く肩を竦める。

「……やっぱりそうか。何悩んでんのかは知らないが、睡眠が妨げられる程なら早く解決した方がいいぜ。出来るならな」

「悩み事? なんかあるのか?」

 松岡と俺の言葉に、新田が沈黙する。俺をチロリと見遣った彼は、何かを言おうと口を開きかけたが、思い留まったように首を左右に振った。

「いや、なんでもない」

 とてもじゃないが、なんでもないとは思えない表情を見せる。「どう思う?」と目を向けた俺に、松岡がヒョイと肩を竦めた。

「俺がいちゃ邪魔ってんなら、いなくなるからさ。こいつに話してみれば? 解決はしなくても、少しは楽になるかもよ」

 親指で俺を示し、子犬を抱え直して歩き出す。しかしその松岡の肘を、新田が慌てた様子で掴んだ。

「違うんだ!」

 縋るような瞳を向けた新田に、松岡が怪訝そうに振り返る。

「あぁ?」

「あ、ご免。さっきの僕の態度を勘違いしたんなら、違うんだ」

 目を剥く松岡にパッと手を放した新田は、俺達の顔を交互に見ながら口篭った。

「どう、言ったらいいかが……判らないんだ」

「はぁ?」

「――解決策があるとも、思えないし」

 歯切れの悪い新田の顔を見つめていた松岡が、ポンと新田の肩を叩く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷では不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

消された過去と消えた宝石

志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。 刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。   後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。 宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。 しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。 しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。 最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。  消えた宝石はどこに? 手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。 他サイトにも掲載しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACの作品を使用しています。

処理中です...