ストレイ・ラム【完結】

Motoki

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黒い幻影

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 雨の止んだ夕暮れの人込みを歩いていた俺達は、時折お互いの顔を見合わせては、溜め息を吐いた。

「どーすんの」

 呟いた俺に、手の中の子犬をフリフリと揺らした松岡は、どーしたもんかと空を仰いだ。

「考えなしに拾ったりすっから、こーゆー事になんだぜ」

 あの後、何人かの生徒達に訊いてみたものの、誰一人として子犬を引き取ってくれるという奴は現れなかった。

「うーん」

「これからバイト、あんじゃねぇの?」

 取り敢えず現実的な問題を挙げてみる。飼い主を探してやるにしても、時間の方が問題だった。

「――まあな」

「じゃ、どーすんだよ」

「それがなぁ……」

 再び唸った松岡が、意を決したように顔を真っ直ぐ前へと向けた。

「やっぱり、依羅さん達に相談してみっか」

「あの喫茶店で飼うってのはどうよ?」

「夜は誰もいなくなんだぜ? 子犬一匹残しておけるか?」

「駄目かなぁ?」

「どーかな。少なくとも依羅さんは怒りそうな気がする」

「じゃ、駄目なんじゃん」

「だよなぁ」

 顔を背け合った俺達は、前方の人込みの中、俺達を見て足を止めた人物に気が付いた。

 学生らしいその男は、顔を突き出すようにして俺達を凝視している。

 満面の笑みを浮かべ、手を振って駆け寄って来る男に、互いの視線を交わし合う。

「誰だ、あれ」

「知るか」

「お前の知り合いだろ。手ぇ振り返してやれよ、すげぇ嬉しそうだぞ」

「阿呆かっ。あんな制服、何処の学校なのかも知らねぇよ」

「でも明らかに俺達に手ぇ振ってんじゃん。俺じゃないのは確かだよ、越して来たばっかなんだから」

「俺だって、マジ知らねって!」

 案の定、俺達の前で足を止めた男に、俺達は引きつった笑顔を浮かべた。

「久しぶりだな!」

 嬉しげに笑った男は、意外にも俺へと顔を向けながら言った。

「山下。キミ、全然変わってないんだな。でも昔は、眼鏡なんてかけてなかったけど」

「は?」

「僕の事、忘れた?」

 覗き込むようにして俺の顔を見る男を凝視していた俺は、相手が誰なのかを思い出し、更に驚きの声をあげた。

「なっ……んだよ、お前! なんでこんなトコにいるワケ? お前が越したのって、東京の方だったろ」

 俺の反応に、相手は胸に手をあて、少々大げさに撫で下ろす仕草をしてみせた。
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