ストレイ・ラム【完結】

Motoki

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黒い幻影

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「駄目だろなぁ。俺ん家マンションだから。依羅さんと友也さんトコも、マンションだから無理だろうし……。お前ん家は?」

 身を乗り出すようにして言った松岡に、俺は慌てて手を振った。

「駄目駄目。俺ん家は母さんが犬嫌いだもん。発狂しちまうよ」

「そっかぁー。まいったな……」

 俺達二人は、この子犬をどうしたものかと悩みながら、チャイムが鳴っても暫くそのまま其処にいた。

 階段を上がって来る足音にふと視線を向けると、其処には担任の山本の姿があった。俺達の姿を見つけて微笑んだ女教師は、丸めたプリントでポコポコと俺達の頭を叩いた。

「小山先生に頼まれた、あなた達二人の地理のプリントよ。次のテストで出るところだから必ずやって持って来るように、とのご伝言付き」

 そう言った山本は、子犬に気付くと「キャー」と小さく声をあげて子犬を抱き上げた。

「これが、問題になった子犬ね」

「先生、こいつ飼ってやれません? 俺も松岡も、無理なんですよね」

「ごめーん。うちも教員宿舎だから駄目なのよ」

 子犬を松岡に渡した山本は、チラリと腕時計を確認して立ち上がった。

「じゃ、職員会議が始まるから行くわね。――ああ、それから。ちゃんと小山先生に謝っておきなさい。迷惑かけたんだから」

「……先生から言っといて」

 子犬を見ながら言った松岡は、憮然とした顔を山本に向けた。

「こんな可愛い子犬が怖いとは知らなかった。案外、だらしないんだなってよ」

「えっ。――小山って、犬苦手なの?」

「うそ。あんなに堂々とした先生が?」

 俺と山本が驚くと、松岡は「間違いない」と頷いてみせた。

「それじゃ、小山先生の尊厳を守る為に、他の生徒達には内緒って事で」

 唇に人差し指をあてた山本は、クスクスと笑いながら階段を下りて行った。
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