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Ⅲ
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しおりを挟む不思議だな、と思う。
卒業式は、自分が卒業する訳ではなくてもなんだか寂しさが漂ってしまう。そして同時に、澄み渡る青空のような、晴れやかな気持ちにも、してくれるのだ。
「卒業おめでとうございます。如月先輩」
僕の言葉に「ありがとな」と先輩が笑う。
如月先輩は中学の頃から知っている先輩で、姉さんが亡くなって僕がテニス部を辞めるとなった時も、とても残念がってくれた部活の先輩だった。
あの頃は、部活どころか何もやる気が起きなくて……。裕文さんを心配させない為に高校には登校していたけれど、授業の内容も全然頭になんか入ってきてくれなかった。
先輩は、僕がテニス部を辞めた後も時折教室に様子を見に来てくれて、廊下で会ったら声をかけてくれて。
学校では友達と同じように、僕を支えてくれた人だった。
「それで、これ……」
僕は用意していた花束を先輩に渡す。
少し恥ずかしいから、校舎の裏でコッソリだ。
「おぉ~、スッゲ! 花束なんて貰うの初めてだ!!」
俺には可愛い過ぎないかー、なんて笑いながら、受け取ってくれた。
「すみません。呼び止めたりしちゃって。先輩のお友達みんな、先帰ってしまいましたね」
「ん? あぁ、先行ってるだけだから全然オッケー。これからカラオケなんだ」
人懐っこい笑顔を浮かべた先輩は、「それに」と首を傾げるようにして僕を見た。
「お前が呼び止めてくれなかったら、俺の方から呼び出そうと思ってたし?」
「えっ、そうなんですか」
なんですか、と言った僕に、先輩は「俺、遠くの大学に行くからさ」と微笑む。
「そうですか……。寂しくなります」
「判んないけど。そのまま俺、こっちには戻って来る気ないから。最後に言っとこうかな、と思って」
「え……。それって――」
――もう2度と、会えないってこと?
自分が、なんだか泣きそうになっているのが判る。
目の前には、姉さんの姿がチラチラと浮かんでいた。
僕の様子に困ったような笑みを浮かべた先輩は、「そう言や」と顔を横に向ける。
「この前、浩次を駅前で見たよ。大人の男と一緒だった。――優しそうなヒト」
「あ…………」
――裕文さんだ。
この前の帰り、2人で駅前に寄ったから。
「あの人は……」
義兄だと説明しようとした僕に、先輩は困った表情のまま、顔を戻す。
そうして「彼が」と言った。
「彼が、以前お前が言ってた『姉さんの旦那』さん?」
「そうです。僕を本当の弟のように思ってるって、言ってくれた人なんです」
「本当の弟?」
嬉しさを含んで言った僕に、ハッと先輩が笑いを吐いた。
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