キミの次に愛してる

Motoki

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「え……」



 向かった、姉さんのお墓の前。

 誰か居ることに、足を止める。



 そしてそれが、見慣れた背中であることに、驚きの声を落とした。



「どうして……」



 僕の呟きに、しゃがんで手を合わせていた人物が振り返る。

 驚きにぽかんと口を開け、立ち上がった。


「あれ? 浩次君? どうしてここに居るの?」


 それはこっちのセリフです、と足を進める。

「お義兄さんこそ。お見合いはどうしたんですかっ」

 時間は!? 間に合うの!? と続けざまに訊いた僕に、「いやぁ、それが……」と横を向いて頭を掻く。

「あれ、実は断ってたんだよねぇ」

「え……」

 どうして……と呟いた僕に、今度は裕文さんが問うてきた。

「浩次君こそ、どうして此処に? お友達は?」

「それは……その……」



 口篭った僕に、裕文さんがふわりと笑う。

 そうして、優しく頭を撫でてきた。



「気を遣ってくれてたんだ? 浩次君は、良い子だねぇ」

 全然良い子じゃないのに、それを言えない。

 そっと息を吐いて、姉さんの墓前に花束を供えて手を合わせた。

「ごめんね。せっかく2人で会話してたのに、邪魔しちゃって」

 僕が言うと、クスリと裕文さんが笑う。

 見上げた僕に、肩を竦めて笑った。

「どうだろ。――もしかしたら、由美が浩次君を呼んだのかもしれないね。僕の愚痴にうんざりして……」

「え……?」


 ――グチってた? 裕文さんが?


 今まで、裕文さんが愚痴を言っているのを聞いた事がない。

 驚く僕に、裕文さんは拗ねるように顔を背けて唇を尖らせた。

「浩次君が、まだ他人行儀なんだよーって。どうしたらちゃんと、家族として俺を見てくれるのかなって、グチってた」

「そんな、こと……」

 僕を見て微笑んでいた裕文さんは、小さく息を吐く。

 そして、「あともう1つ」と再び姉さんの墓石を見遣った。

「弟が女の子と遊びに行くってだけで、こんなふうに嫉妬するものなのかな、って訊いてた」

「えっ?」

「俺、一人っ子だったから……。よく解らなくて」

「――……姉さんは、何て言ってました?」



 此処には他に、人が居なくて。

 ドキドキ言ってる心臓の音が、裕文さんに聞こえてしまうんじゃないかと思った。



 そうだね、と笑った裕文さんが、小首を傾げる。

「『知らないわよ』って呆れられてる気もするし、『自分で考えなさい』と笑われてる気もするよ」

 笑ってる裕文さんに、思わず見惚れてしまう。



 ――もし、姉さんが。



 僕をこの場に呼んでくれたんだとしたら、きっと別の理由だと思う。



「けど……。言えないよ。そのなの」



 ぽつりと呟いて。



 でも――ありがとう、と。

 姉さんに心の中で伝えた。


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