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Ⅱ
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しおりを挟む「え……」
向かった、姉さんのお墓の前。
誰か居ることに、足を止める。
そしてそれが、見慣れた背中であることに、驚きの声を落とした。
「どうして……」
僕の呟きに、しゃがんで手を合わせていた人物が振り返る。
驚きにぽかんと口を開け、立ち上がった。
「あれ? 浩次君? どうしてここに居るの?」
それはこっちのセリフです、と足を進める。
「お義兄さんこそ。お見合いはどうしたんですかっ」
時間は!? 間に合うの!? と続けざまに訊いた僕に、「いやぁ、それが……」と横を向いて頭を掻く。
「あれ、実は断ってたんだよねぇ」
「え……」
どうして……と呟いた僕に、今度は裕文さんが問うてきた。
「浩次君こそ、どうして此処に? お友達は?」
「それは……その……」
口篭った僕に、裕文さんがふわりと笑う。
そうして、優しく頭を撫でてきた。
「気を遣ってくれてたんだ? 浩次君は、良い子だねぇ」
全然良い子じゃないのに、それを言えない。
そっと息を吐いて、姉さんの墓前に花束を供えて手を合わせた。
「ごめんね。せっかく2人で会話してたのに、邪魔しちゃって」
僕が言うと、クスリと裕文さんが笑う。
見上げた僕に、肩を竦めて笑った。
「どうだろ。――もしかしたら、由美が浩次君を呼んだのかもしれないね。僕の愚痴にうんざりして……」
「え……?」
――グチってた? 裕文さんが?
今まで、裕文さんが愚痴を言っているのを聞いた事がない。
驚く僕に、裕文さんは拗ねるように顔を背けて唇を尖らせた。
「浩次君が、まだ他人行儀なんだよーって。どうしたらちゃんと、家族として俺を見てくれるのかなって、グチってた」
「そんな、こと……」
僕を見て微笑んでいた裕文さんは、小さく息を吐く。
そして、「あともう1つ」と再び姉さんの墓石を見遣った。
「弟が女の子と遊びに行くってだけで、こんなふうに嫉妬するものなのかな、って訊いてた」
「えっ?」
「俺、一人っ子だったから……。よく解らなくて」
「――……姉さんは、何て言ってました?」
此処には他に、人が居なくて。
ドキドキ言ってる心臓の音が、裕文さんに聞こえてしまうんじゃないかと思った。
そうだね、と笑った裕文さんが、小首を傾げる。
「『知らないわよ』って呆れられてる気もするし、『自分で考えなさい』と笑われてる気もするよ」
笑ってる裕文さんに、思わず見惚れてしまう。
――もし、姉さんが。
僕をこの場に呼んでくれたんだとしたら、きっと別の理由だと思う。
「けど……。言えないよ。そのなの」
ぽつりと呟いて。
でも――ありがとう、と。
姉さんに心の中で伝えた。
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