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Ⅱ
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しおりを挟む「ん?」
「あの、掃除中に見ちゃったんですけど……。いえ、中身は見ていないんですけど。机の上にあった……」
そこまで言うと、裕文さんは何のことだか判ったみたいだった。
こちらを見た気配があって、「ああ」と声を発する。
――俺、見合いするんだ。
続くだろうその言葉を、彼から聞きたくなくて、僕は慌てて続けた。
「お見合い、するんですね。……よかった。お義兄さんまだ若いし優しいから、きっとすぐに決まりますね」
「いや、そんな事ないよ。由美くらいじゃない? 俺なんかがいいって言う物好きは」
ハハッと笑いながら言った裕文さんに、苛立ちの息が洩れる。
彼の言葉を遮るように、「そんな事ないよ」と吐き出した。
「あっ、でも丁度良かった。僕も、友達から皆で遊びに行こうって誘われてて。お義兄さんの見合いの日に合わせて、約束しようかな」
もう、自分で何を言っているのかも解らない。
けれど、「あ、そうなの」と呟いた裕文さんの言葉に、心が壊れそうだった。
――否定してよ。見合いなんかしないって!
グッと奥歯を食い縛って、零れそうになる涙をなんとか堪える。
裕文さんに背を向けていて良かったと、そう思った。
「浩次君?」
裕文さんが、ソファから立ち上がる気配がする。
近付いてほしくなくて、僕は笑いを含んだ声で続けた。
「あ、それから。再婚するんだったら、僕、ここ出て行かなきゃね」
「えっ……」
何を、と否定しようとする義兄に、「そりゃそうでしょ」と背中を向けたままで言う。
「邪魔じゃないか、僕。新しい奥さんだって――……」
――ガンッ!!!
壁を叩く、物凄い音がした。
弾かれるように振り返ると、壁に拳をあてたままの裕文さんが、俯いていた。
「……俺は……キミのこと……。大切だと思っている。これ以上ないくらい……。――本当の、弟のように。……見合いしても、浩次君が出て行く必要なんてない。例え――この先、何があったとしても……此処は、キミの家だから。俺は、キミの、兄だから……」
そのまま、背を向けた裕文さんの顔が、見えない。
「ごめん。今日、仕事持ち帰ってるから……。夕飯出来たら、呼んでくれるかな」
いつもの調子に声を戻した裕文さんは、僕を見る事なく、僕に謝るチャンスもくれず、リビングを出て行ってしまった。
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