キミの次に愛してる

Motoki

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「ん?」

「あの、掃除中に見ちゃったんですけど……。いえ、中身は見ていないんですけど。机の上にあった……」

 そこまで言うと、裕文さんは何のことだか判ったみたいだった。

 こちらを見た気配があって、「ああ」と声を発する。



 ――俺、見合いするんだ。



 続くだろうその言葉を、彼から聞きたくなくて、僕は慌てて続けた。

「お見合い、するんですね。……よかった。お義兄さんまだ若いし優しいから、きっとすぐに決まりますね」

「いや、そんな事ないよ。由美くらいじゃない? 俺なんかがいいって言う物好きは」

 ハハッと笑いながら言った裕文さんに、苛立ちの息が洩れる。

 彼の言葉を遮るように、「そんな事ないよ」と吐き出した。

「あっ、でも丁度良かった。僕も、友達から皆で遊びに行こうって誘われてて。お義兄さんの見合いの日に合わせて、約束しようかな」

 もう、自分で何を言っているのかも解らない。

 けれど、「あ、そうなの」と呟いた裕文さんの言葉に、心が壊れそうだった。

 ――否定してよ。見合いなんかしないって!

 グッと奥歯を食い縛って、零れそうになる涙をなんとか堪える。

 裕文さんに背を向けていて良かったと、そう思った。

「浩次君?」

 裕文さんが、ソファから立ち上がる気配がする。

 近付いてほしくなくて、僕は笑いを含んだ声で続けた。

「あ、それから。再婚するんだったら、僕、ここ出て行かなきゃね」

「えっ……」

 何を、と否定しようとする義兄に、「そりゃそうでしょ」と背中を向けたままで言う。

「邪魔じゃないか、僕。新しい奥さんだって――……」




 ――ガンッ!!!




 壁を叩く、物凄い音がした。



 弾かれるように振り返ると、壁に拳をあてたままの裕文さんが、俯いていた。

「……俺は……キミのこと……。大切だと思っている。これ以上ないくらい……。――本当の、弟のように。……見合いしても、浩次君が出て行く必要なんてない。例え――この先、何があったとしても……此処は、キミの家だから。俺は、キミの、兄だから……」



 そのまま、背を向けた裕文さんの顔が、見えない。

「ごめん。今日、仕事持ち帰ってるから……。夕飯出来たら、呼んでくれるかな」



 いつもの調子に声を戻した裕文さんは、僕を見る事なく、僕に謝るチャンスもくれず、リビングを出て行ってしまった。


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