キミの次に愛してる

Motoki

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 翌日の土曜日。

 僕は義兄の裕文さんと買物に出掛けていた。

 案の定と言おうか。お人好しの裕文さんは、自分の服はそこそこに、僕の服選びに奮闘している。

「なんでも良いですよ」

「ダメダメ。ちゃんと格好良い服着なきゃ、せっかくの男前が台無しだよ」

 ――男前なのはあなたです。

 そう返したかったが、言ったら最後、顔から火を吹くだろうから止めにした。

「浩次君は青より黒の方が似合うかなぁ? 黒に赤や紫っていう組み合わせもあるよねぇ」

 うーん、どうしようかなぁ…と、真剣に悩んでくれている。

 裕文さんはいつだって、こんな感じだ。

 僕が遠慮しないように、 僕が肩身の狭い思いをしないように、いつでも気を遣ってくれている。

「服なんて、本当にいらない」



 その代わり、あなたとずっと一緒に居たい――。



 僕がそう言ったなら、この人はどうするんだろうか。

「いいよ」

 なんて、きっと言うんだろう。

 僕の『本当の望み』にも気付かずに、ずっと義兄として、僕の傍に居続けてくれるのだ。

 それでも――いいかなぁ。

 なんて思ってしまう僕は、いつからこんな『寂しがりや』になってしまったんだろう……。

 自嘲気味に、笑ってしまう。

「バカだな、僕は。こんなの、姉さんに合わせる顔なんてないじゃないか」



 いつまで経っても、裕文さんは僕の『姉さんの旦那さん』で。

 どんなにご飯作りを頑張っても、僕は裕文さんにとって『妻の弟』だ。



 この関係は、変わる筈もない。



 いつだって僕達の間には、姉さんが必要だ。

 姉さん越しの、関係。 



「お義兄さん」

 まだ真剣に悩んでくれている裕文さんに、僕は笑顔を浮かべる。

「ん?」

「お腹、すきました」




「再婚は、しないんですか?」

 昼食を食べながら訊いた僕に、裕文さんは手を止める。

 今まで見た事もない、怒ったような顔で目を剥いた。

 そうして少し、寂しそうな笑顔を浮かべる。

「そうだね……。まだ、しないかな」

「いつまで?」

 呟くように訊いて。

 姉さんの何回忌になったら再婚するんだよ、と八つ当たり気味に切り返していた。

「……浩次君が結婚するまでは絶対しない、かな」



 初めて。

 裕文さんを「残酷だ」と思った。 



「そんなの……僕がいつまでも結婚しなかったらどうすんの?」

 困らせようと思った。

 父親気取り、兄気取りでいるのなら。駄々をこねる子供のように、ただ困らせてやろうと思った。

「それなら……。いつまでも俺だって再婚しないね」


 ――死ぬまでよろしく。


 まるで結婚式の誓いのような事を言って、笑っている。

「……変わってるね、お義兄さん」

 呆れ気味に僕がそう言っても、裕文さんは楽しそうに笑い続けていた。


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