3 / 17
Ⅰ
3
しおりを挟む翌日の土曜日。
僕は義兄の裕文さんと買物に出掛けていた。
案の定と言おうか。お人好しの裕文さんは、自分の服はそこそこに、僕の服選びに奮闘している。
「なんでも良いですよ」
「ダメダメ。ちゃんと格好良い服着なきゃ、せっかくの男前が台無しだよ」
――男前なのはあなたです。
そう返したかったが、言ったら最後、顔から火を吹くだろうから止めにした。
「浩次君は青より黒の方が似合うかなぁ? 黒に赤や紫っていう組み合わせもあるよねぇ」
うーん、どうしようかなぁ…と、真剣に悩んでくれている。
裕文さんはいつだって、こんな感じだ。
僕が遠慮しないように、 僕が肩身の狭い思いをしないように、いつでも気を遣ってくれている。
「服なんて、本当にいらない」
その代わり、あなたとずっと一緒に居たい――。
僕がそう言ったなら、この人はどうするんだろうか。
「いいよ」
なんて、きっと言うんだろう。
僕の『本当の望み』にも気付かずに、ずっと義兄として、僕の傍に居続けてくれるのだ。
それでも――いいかなぁ。
なんて思ってしまう僕は、いつからこんな『寂しがりや』になってしまったんだろう……。
自嘲気味に、笑ってしまう。
「バカだな、僕は。こんなの、姉さんに合わせる顔なんてないじゃないか」
いつまで経っても、裕文さんは僕の『姉さんの旦那さん』で。
どんなにご飯作りを頑張っても、僕は裕文さんにとって『妻の弟』だ。
この関係は、変わる筈もない。
いつだって僕達の間には、姉さんが必要だ。
姉さん越しの、関係。
「お義兄さん」
まだ真剣に悩んでくれている裕文さんに、僕は笑顔を浮かべる。
「ん?」
「お腹、すきました」
「再婚は、しないんですか?」
昼食を食べながら訊いた僕に、裕文さんは手を止める。
今まで見た事もない、怒ったような顔で目を剥いた。
そうして少し、寂しそうな笑顔を浮かべる。
「そうだね……。まだ、しないかな」
「いつまで?」
呟くように訊いて。
姉さんの何回忌になったら再婚するんだよ、と八つ当たり気味に切り返していた。
「……浩次君が結婚するまでは絶対しない、かな」
初めて。
裕文さんを「残酷だ」と思った。
「そんなの……僕がいつまでも結婚しなかったらどうすんの?」
困らせようと思った。
父親気取り、兄気取りでいるのなら。駄々をこねる子供のように、ただ困らせてやろうと思った。
「それなら……。いつまでも俺だって再婚しないね」
――死ぬまでよろしく。
まるで結婚式の誓いのような事を言って、笑っている。
「……変わってるね、お義兄さん」
呆れ気味に僕がそう言っても、裕文さんは楽しそうに笑い続けていた。
3
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
想い出に変わるまで
豆ちよこ
BL
中川和真には忘れられない人がいる。かつて一緒に暮らしていた恋人だった男、沢田雄大。
そして雄大もまた、和真を忘れた事はなかった。
恋人との別れ。その後の再出発。新たな出逢い。そして現在。
それぞれ短編一話完結物としてpixivに投稿したものを加筆修正しました。
話の流れ上、和真視点は描き下ろしを入れました。pixivにも投稿済です。
暇潰しにお付き合い頂けると幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
エスポワールに行かないで
茉莉花 香乃
BL
あの人が好きだった。でも、俺は自分を守るためにあの人から離れた。でも、会いたい。
そんな俺に好意を寄せてくれる人が現れた。
「エスポワールで会いましょう」のスピンオフです。和希のお話になります。
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる