キミの次に愛してる

Motoki

文字の大きさ
上 下
1 / 17

1

しおりを挟む
「ただいま」

「あ、おかえりなさい」



 仕事から帰って来ると義兄は、キッチンに居る僕に真っ先に声をかけてくれる。

 僕に笑顔を向けるとそのまま、奥にある和室に行くのだ。

 すぐに聞こえてくる、仏壇のおりんの音。

 まるで姉さんと会話をしているかのように、しばらくは何の物音もしない。

 そうしてしばらくすると自室に入る気配がして、 背広からラフな服装に着替えた義兄が、リビングへと入って来る。

「これ。今月のお給料。ここに置いておくね」

「今月もお疲れ様でした」

 銀行の封筒に入ったお給料を、リビングのテーブルの上へと置いてくれる。

 毎月二十五日に振り込まれているから引き出してくれて構わない、と以前に言ってくれたけれど。そんな訳にいかない。

 なんだか義兄のプライバシーにズカズカと入り込んで行くみたいで、どうしても出来なかった。




 料理をテーブルへと僕が並べていくと、「美味しそうだね」と義兄が言ってくれる。

 そして食事をしながらも、

「美味い」

 と必ず褒めてくれるのだ。

 毎晩それが続くものだから、なんだか僕の方が照れてしまう。

 だって本当は、姉さんが作った料理の方が何倍も美味しかったに決まっているのだから。 

「そろそろ僕も、バイトくらいしようかな……」

 ぽつりと呟けば、義兄がピタリと箸を止めた。

「えっ。ウチってそんなに家計大変だったの?」

 ああー俺そういうの無頓着だからなぁー、とこめかみを掻いている。

 ごめんね、と謝りかねない義兄に、慌てて首を横に振った。

「いえそんな……。充分入れてもらってます」

「なら。そんな事言わないでよ。来年は受験だから、勉強も忙しくなっちゃうし」

 ああでも忙しくなってもご飯は作ってほしいなぁー、と甘えたように言う義兄の姿に、思わず笑ってしまう。

「大丈夫。高三になっても、ご飯くらい作りますよ」



 僕が十歳の時に、両親が交通事故で亡くなった。

 それからは、八歳年上の姉が一人で僕を育ててくれた。



 そんな姉の結婚相手への条件は、「弟と同居してくれる人」で。学生の頃から付き合っていたカレは、その条件が負担だと、プロポーズまでしていたくせに姉から離れていった。

 優しくて、弟の僕が言うのもなんだけど、美人だった姉の前には、恋人候補者が跡を絶たなかった。

 それでも僕を「養ってもいい」と言ってくれる人は、全然現れなかった。

 そんな姉が、二年前にやっと結婚して。

 相手は、裕文さんみたいな随分なお人好しで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

【完結】終わりとはじまりの間

ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。 プロローグ的なお話として完結しました。 一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。 別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、 桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。 この先があるのか、それとも……。 こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。

あなたと交わす、未来の約束

由佐さつき
BL
日向秋久は近道をしようと旧校舎の脇を通り、喫煙所へと差し掛かる。人気のないそこはいつも錆びた灰皿だけがぼんやりと佇んでいるだけであったが、今日は様子が違っていた。誰もいないと思っていた其処には、細い体に黒を纏った彼がいた。 日向の通う文学部には、芸能人なんかよりもずっと有名な男がいた。誰であるのかは明らかにされていないが、どの授業にも出ているのだと噂されている。 煙草を挟んだ指は女性的なまでに細く、白く、銀杏色を透かした陽射しが真っ直ぐに染み込んでいた。伏せた睫毛の長さと、白い肌を飾り付ける銀色のアクセサリーが不可思議な彼には酷く似合っていて、日向は視線を外せなかった。 須賀千秋と名乗った彼と言葉を交わし、ひっそりと隣り合っている時間が幸せだった。彼に笑っていてほしい、彼の隣にいたい。その気持ちだけを胸に告げた言葉は、彼に受け入れられることはなかった。 ***** 怖いものは怖い。だけど君となら歩いていけるかもしれない。

太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる

きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK 高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。 花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。 親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。 両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。

処理中です...