悪役令嬢は呑んだくれ放浪の旅に出たい

2．レモンハイくださぃ

酒でも呑まないと聞いていられない話 その1

キールの話はこうだった。


この世界は実は『お菓子で繋がる運命の赤い糸』という乙女ゲーム、略して『おつ糸』という乙ゲーの世界だそうだ。
恋愛攻略対象に手作りお菓子をプレゼントしていくことで恋愛ゲージを貯めていき、最後攻略対象にプロポーズされることによりGOOD EDを迎えることができるといったゲームらしい。

自分はその『おつ糸』というゲームを全く知らず、そもそも乙ゲーというもの自体もやったことがなかった。

そういえばダニエルは日本のオタク文化にやたら詳しく、時間を見つけては足繁く秋葉原や池袋に通い詰めていたもんなぁ。乙ゲーにまで手を出していたとは。。。
流石、会社の一部の人々に『先生』と呼ばれ尊敬されていたことはある。


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『おつ糸』のストーリーは、主人公の少女が貴族が多く通う王立学園に編入するとこから始まる。

主人公はこれまで市井で母親と父親の愛情のもと育ってきたが、ある日母親が病死する。母の葬式後深い悲しみにいる中、父親より実は父親は侯爵であり、侯爵家で共に暮らそうとの提案を受けるのだ。主人公はその提案を受け入れ、侯爵家に入り、平民から侯爵令嬢となる。

侯爵家には侯爵の正妻とその娘、主人公からして義姉、そして跡取りとして養子入していた息子、主人公からして義弟がいた。

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・・・・。
侯爵、カスじゃなぃ？
正式な妻と娘、息子がいるのに愛人と娘を作り、その愛人の家に入り浸っていたってことだよね？

物語だからいいけどさぁ。
いや、その物語はこの世界ということだから、現実にいるということかそのカス侯爵は。


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話は戻り、侯爵家に入った主人公は正妻とその娘から冷たい対応をとられる。学園でも義姉から嫌がらせを受ける。
そんな辛い境遇の主人公に、国の第一王子が優しい言葉をかけてくれる。

主人公は優しくしてくれたお返しにと、イベントが発生する度、亡き母との思い出の様々なお菓子を作り、第一王子にプレゼントをする。
第一王子は主人公の健気さと家庭的な暖かさに心惹かれ、主人公との距離がどんどん近づいていく。

惹かれ合う主人公と第一王子だが、第一王子には婚約者がいて、なんとその婚約者は主人公の義姉だった。

義姉の嫌がらせはますますエスカレートしていき、遂に義姉は毒を入手し、主人公の毒殺を目論むが第一王子達の活躍により未遂に終わる。

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いやぁ、義姉が嫌がらせをする気持ちわかるわぁ。
クソ父親が突然、愛人と作った娘を連れてきて、家族になることを強要してくるとか無いわぁ。
その上、その義妹に婚約者盗られるとか、本当マジ無いわぁ。
毒殺を謀るのはちょっとやりすぎのように思うけど、そこまで思いつめる気持ちわかるわぁ。


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物語のクライマックスでは、学園の卒業パーティでこれまで色々と嫌がらせをしてきた義姉は第一王子達に断罪され、婚約破棄をされる。
その後、第一王子は主人公にプロポーズをし、2人は皆の祝福の中結ばれる。

一方、義姉はこれまで主人公に行ってきた罪を問われ処刑される。

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っ、処刑！！
処刑されるんかぃ！！！

義姉、不憫でしょうがなぃわ。

まるで不倫されていた女友達の話を聞いた時くらい、酒無しでは聞くに耐えない話だった。


一通りのこの世界が舞台となる『おつ糸』の物語を聴き終わり、溜息混じりに呟いた。

「ふぅ、そんなクソみたいな事がこの世界で起こるんだねぇ。」


「・・・いや、お姉様、薄々わかっているとは思いますが、他人事では無いんですよ。」


・・・ぃ・・嫌ぁ・・・・、気付かせないで・・・


「物語で処刑される悪役令嬢の義姉の名は、『カシス・コアントロー』。お姉様なんです。」



OH！　NOーーーーーー！！


『おつ糸』制作ゲーム会社よっ！！
なんていう作品を作ってしまったんじゃぃっ！！！！