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025.覚醒
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満月の夜、特区に化け物が出る。
口と思われる穴から複数の細長い触手を出し入れし、身体は粘液と砂に塗れている。ぬめぬめと照り光る手足のない長く大きな身体は道を這い、人を追いかけては襲い掛かっている……と通報がはいった。
襲われたといっても、食われた人間はおろか、怪我をした住人もいないのが不思議だった。モンスターは人を追いかけながらも、しかし、襲ったとは十分には言えないのだった。
身体を摺り寄せ、くねらせる。のけぞりつつも首を垂れて(?)、住人におもねるような仕草――まるで友愛あお示すような行動である。
人間としては堪ったものではないが。
***
この日、いばら署員は護身のために一人の一般人を伴っていた。
少女の姿をしていたが、非ざる者である。インテリタスという名前のそれは、相手がどんな姿で、どんな大きさで、どんな距離にいても物ともせずに握りつぶすのであった。
普段ならばその力を借りることはない署員である。今夜ばかりは、暗闇の警備であること、目撃されたモンスターが大きいことから渋々、対抗する化け物を携行することになったのだった。
西地区から東に向かう路。何かを引きずるような音が近づいてくる。警戒して立ち止まると十字路から月に照らされて赤黒くぬめる身体がずるずると重たげに現れた。そのまま真っすぐに進み、二人の前を通り過ぎようとしている。
でかい! そう思って後ずさりした、いばら署員の靴底と砂利の擦れる音を聞き、巨体が捻られた。路地をUターンする際に周囲の壁を巻き込まないよう、避けながら動いたのが妙に人間的だった。ジャリ、という音を感知した方向にのそのそと動き、人型二人に近づいてくる。
巨体は頭をもたげたが、しかし、二人を襲ってこなかった。飛び掛かってくるのを警戒して身構えたが、化物は報告を受けた通り、くねくねと意味もなく身体を動かしているのだった。
――油断を誘う? 知能の高いモンスター?
蚯蚓様の化け物について思案する。報告を信じて良い物か。しかし、人を襲わない怪物を対峙ないし捕獲すべきなのだろうか。
徐に、触手が伸びた。
いばら署員が背後に飛ぶ。インテリタスはその場に立ち尽くして、動かなかった。
「インテリタス!」
思ってもみない声が出た。いばら署員の緊張を知ってか知らずか、インテリタスが前に掌を突き出す。
ぐちゅ。
触手が触れるよりも前に、根元から引きちぎられ路に落ちた。橙色の体液が飛び散る。
怪物は金管楽器のような鳴き声を上げて後退する。
それから、現れた時とは比べ物にならないくらいの早さで逃げて行ったのだった。
呆気に取られていたいばら署員だったが、すぐさま走り出す。臭う体液を辿った先に下顎の失われた青年が座り込んでいた。
***
「満月の夜にモンスターに変わるようになったんです」
恐らく、小さな虫に刺されたのが原因だろうと西地区警備署で顎を再生させた青年が話す。
「それで、僕も気が大きくなっちゃったと言うか。食べるとか襲うとか、そういう感じではなくて、驚かせてみようとか、かわいい子がいたら仲良くなりたいなあっておもって……」
危険性はなかったとして、無罪放免となった。
青年は満月に出現する特区マスコットとして人気をはくしている。
口と思われる穴から複数の細長い触手を出し入れし、身体は粘液と砂に塗れている。ぬめぬめと照り光る手足のない長く大きな身体は道を這い、人を追いかけては襲い掛かっている……と通報がはいった。
襲われたといっても、食われた人間はおろか、怪我をした住人もいないのが不思議だった。モンスターは人を追いかけながらも、しかし、襲ったとは十分には言えないのだった。
身体を摺り寄せ、くねらせる。のけぞりつつも首を垂れて(?)、住人におもねるような仕草――まるで友愛あお示すような行動である。
人間としては堪ったものではないが。
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この日、いばら署員は護身のために一人の一般人を伴っていた。
少女の姿をしていたが、非ざる者である。インテリタスという名前のそれは、相手がどんな姿で、どんな大きさで、どんな距離にいても物ともせずに握りつぶすのであった。
普段ならばその力を借りることはない署員である。今夜ばかりは、暗闇の警備であること、目撃されたモンスターが大きいことから渋々、対抗する化け物を携行することになったのだった。
西地区から東に向かう路。何かを引きずるような音が近づいてくる。警戒して立ち止まると十字路から月に照らされて赤黒くぬめる身体がずるずると重たげに現れた。そのまま真っすぐに進み、二人の前を通り過ぎようとしている。
でかい! そう思って後ずさりした、いばら署員の靴底と砂利の擦れる音を聞き、巨体が捻られた。路地をUターンする際に周囲の壁を巻き込まないよう、避けながら動いたのが妙に人間的だった。ジャリ、という音を感知した方向にのそのそと動き、人型二人に近づいてくる。
巨体は頭をもたげたが、しかし、二人を襲ってこなかった。飛び掛かってくるのを警戒して身構えたが、化物は報告を受けた通り、くねくねと意味もなく身体を動かしているのだった。
――油断を誘う? 知能の高いモンスター?
蚯蚓様の化け物について思案する。報告を信じて良い物か。しかし、人を襲わない怪物を対峙ないし捕獲すべきなのだろうか。
徐に、触手が伸びた。
いばら署員が背後に飛ぶ。インテリタスはその場に立ち尽くして、動かなかった。
「インテリタス!」
思ってもみない声が出た。いばら署員の緊張を知ってか知らずか、インテリタスが前に掌を突き出す。
ぐちゅ。
触手が触れるよりも前に、根元から引きちぎられ路に落ちた。橙色の体液が飛び散る。
怪物は金管楽器のような鳴き声を上げて後退する。
それから、現れた時とは比べ物にならないくらいの早さで逃げて行ったのだった。
呆気に取られていたいばら署員だったが、すぐさま走り出す。臭う体液を辿った先に下顎の失われた青年が座り込んでいた。
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「満月の夜にモンスターに変わるようになったんです」
恐らく、小さな虫に刺されたのが原因だろうと西地区警備署で顎を再生させた青年が話す。
「それで、僕も気が大きくなっちゃったと言うか。食べるとか襲うとか、そういう感じではなくて、驚かせてみようとか、かわいい子がいたら仲良くなりたいなあっておもって……」
危険性はなかったとして、無罪放免となった。
青年は満月に出現する特区マスコットとして人気をはくしている。
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