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023.眠
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今年は眠りの森の浸食が著しい。
『求! 不眠症』
ポスターが所かまわず貼られている。不眠症の団体が毎年眠りの森の伐採討伐を行っているのだ。例年ならば、13チームの精鋭で事足りている伐採だが、今年の浸食は手が足りないためこうして募集がかかっている。募集されているのは重度不眠症の人材。重度の不眠症でない者は眠りの森に近づいただけで意識を失ってしまうだろう。
青年はポスターをじっと見つめていた。彼は不眠症だった。特区とはいえ、夜は静かだ。静かな夜には救難信号が良く聞こえる。早く故郷の星を救いなさい。新しく居住地が見つかったら信号を送りなさい。新天地の生物を滅ぼしなさい。そこにすぐに移住できるようにしなさい。そんな声が頭の中で鳴り響き、眠りに落ちるのは雄鶏が鳴き始めて特区が起き始める朝方から。昼まで眠り、午後から活動を始める。
そんな生活を送る青年にとって眠りの森の伐採討伐はうってつけの仕事に見えた。青年はさっそく求人に書いてあった住所に赴いた。
事務所にいる職員はどす黒い隈を持つ男だった。普通の求人で聞かれるような職歴などは聞かれることがなく、どれくらいの期間不眠症なのか、睡眠薬の使用歴はあるか、力仕事には自信があるかどうかなどを簡単に聞かれた。
「ちなみに若く見えるけどいくつだい」
実は私は25歳なんだ、と男が自嘲気味に笑う。その倍はありそうな人相をしていた。
「僕も見た目よりは若くありません」
「そうか、羨ましいことだ」
そんな簡単な会話をしているだけなのに、青年の身体にはある異変が起き始めていた。眠い。強烈な眠気が青年を襲う。人と話しているのに眠くなること初めての事だった。次第に瞼が落ち、いつのまにか青年は眠り込んでしまっていた。
気が付けば事務所のソファーに寝かされている。先ほどの職員は書類を作成していたが、起きた青年に近寄って来た。
「ごめんなさい。眠ってしまって」
男が窓際を顎でしゃくった。そこには何の変哲もない植木が置かれていた。
「ここの事務所にいても眠らないことがチームに入る試験でね……」
あの植木は眠りの森から採って来た木なんだよ。
「あの程度で眠り込んでしまうと、途端に森に取り込まれてしまうからね」
青年はどうやら求人には落ちたようである。
久しぶりにぐっすり眠り、帰り道の青年の頭はすっきりと冴えていた。
「あの植木欲しかったなあ」
いくらか植木を譲ってほしい、そう交渉したが男は首を縦に振らなかった。
「眠りの森の木は管理が厳しくてね。試験としてこの事務所に置かれているけれども、扱いが大変なんだ」
なにせ、眠りの森に取り込まれれば絶対に戻ってこれないからね。
心底、残念な顔をしていた。
『求! 不眠症』
ポスターが所かまわず貼られている。不眠症の団体が毎年眠りの森の伐採討伐を行っているのだ。例年ならば、13チームの精鋭で事足りている伐採だが、今年の浸食は手が足りないためこうして募集がかかっている。募集されているのは重度不眠症の人材。重度の不眠症でない者は眠りの森に近づいただけで意識を失ってしまうだろう。
青年はポスターをじっと見つめていた。彼は不眠症だった。特区とはいえ、夜は静かだ。静かな夜には救難信号が良く聞こえる。早く故郷の星を救いなさい。新しく居住地が見つかったら信号を送りなさい。新天地の生物を滅ぼしなさい。そこにすぐに移住できるようにしなさい。そんな声が頭の中で鳴り響き、眠りに落ちるのは雄鶏が鳴き始めて特区が起き始める朝方から。昼まで眠り、午後から活動を始める。
そんな生活を送る青年にとって眠りの森の伐採討伐はうってつけの仕事に見えた。青年はさっそく求人に書いてあった住所に赴いた。
事務所にいる職員はどす黒い隈を持つ男だった。普通の求人で聞かれるような職歴などは聞かれることがなく、どれくらいの期間不眠症なのか、睡眠薬の使用歴はあるか、力仕事には自信があるかどうかなどを簡単に聞かれた。
「ちなみに若く見えるけどいくつだい」
実は私は25歳なんだ、と男が自嘲気味に笑う。その倍はありそうな人相をしていた。
「僕も見た目よりは若くありません」
「そうか、羨ましいことだ」
そんな簡単な会話をしているだけなのに、青年の身体にはある異変が起き始めていた。眠い。強烈な眠気が青年を襲う。人と話しているのに眠くなること初めての事だった。次第に瞼が落ち、いつのまにか青年は眠り込んでしまっていた。
気が付けば事務所のソファーに寝かされている。先ほどの職員は書類を作成していたが、起きた青年に近寄って来た。
「ごめんなさい。眠ってしまって」
男が窓際を顎でしゃくった。そこには何の変哲もない植木が置かれていた。
「ここの事務所にいても眠らないことがチームに入る試験でね……」
あの植木は眠りの森から採って来た木なんだよ。
「あの程度で眠り込んでしまうと、途端に森に取り込まれてしまうからね」
青年はどうやら求人には落ちたようである。
久しぶりにぐっすり眠り、帰り道の青年の頭はすっきりと冴えていた。
「あの植木欲しかったなあ」
いくらか植木を譲ってほしい、そう交渉したが男は首を縦に振らなかった。
「眠りの森の木は管理が厳しくてね。試験としてこの事務所に置かれているけれども、扱いが大変なんだ」
なにせ、眠りの森に取り込まれれば絶対に戻ってこれないからね。
心底、残念な顔をしていた。
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